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次世代を仲間にするのは、とても先進的なこと。

Special 対談 慶應義塾大学大学院 教授 蟹江 憲史 Re:touch エグゼクティブプロデューサー 田中 信康

PROFILE

蟹江 憲史(かにえ のりちか)さん

慶應義塾大学大学院の政策・メディア研究科教授、同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表。
専門は国際関係論、サステナビリティ学、地球システムガバナンス。
国連が4年に1回発表する「グローバル持続可能な開発報告書」(GSDR)2023年版を執筆した世界の15人の独立科学者の1人で、近著に『SDGs(持続可能な開発目標)』や『SDGs入門:未来を変えるみんなのために』などがある。
政府SDGs推進本部円卓会議メンバー、内閣府自治体SDGs推進評価・調査検討会委員などを兼務。

2023年9月12日、国連がグローバル持続可能な開発報告書2023(GSDR2023)を発表した。SDGsが2030年までの折り返しを迎えている中で、ほぼすべての目標達成が極めて厳しいと評価。ただ、世界各地でSDGsの達成に向けた変革が起こり始めているともしている。
日本からは唯一このレポートの執筆者として参加している慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授。いかにこうした変革の種をまき、加速させていくかをまとめ、変革が起こる「Sカーブ」というモデルを提言。そのために必要なのは、科学と政策と社会の連携だと語っている。
今回は、Re:touchのスペシャル対談として、日本のSGDsの第一人者である蟹江教授に、世界のSDGsの現状や岐阜県のSDGsについてお話を聞いた。

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世界のSDGsの進捗を分析する
「グローバル持続可能な報告書」。

2023年9月12日、「グローバル持続可能な開発報告書2023」(Global Sustainable Development Report 2023)が公表された。これは世界のSDGsの進捗を分析するレポートで、国連が4年に1回発表している。SDGs達成までの折り返しとなった2023年、経済や社会、環境の状況はむしろ悪化も見られ、多くの危機が複合的に日常生活に影響を及ぼしている。2023年版では、こうした危機に対するSDGs実践の成果や今後必要な取り組みについて科学的なアプローチをしている。
2023年版を執筆したのは世界から選ばれた15人の独立科学者で、日本からは慶應義塾大学大学院の蟹江憲史教授が参加。世界各地でSDGs達成へ向けた変革が起こり始めており、いかにこうした変革の種をまき、加速させていくかをまとめ、変革が起こる「Sカーブ」というモデルを提言している。蟹江教授はこのモデルを参照することで、行動の現状を客観的に評価し、今後の見通しを考えることができるとし、そのために必要なのは科学と政策と社会の連携と語る。


SDGsも折り返し地点だが、達成率はまだ15%と厳しい。

田中:今回は、Re:touchのスペシャル対談として蟹江先生にお越しいただきました。
私どもは、岐阜のSDGs推進に向け、Re:touchというポータルサイトを無償で立ち上げ、これまで、本業では関わりがなかった方々と出逢い、対話を行い、最終的には、地域の共創連携をしていくことを目指しています。
本日は、蟹江先生に、SDGsの現状、また、岐阜県のSDGsにエールをいただきたいと思います。

蟹江:よろしくお願いします。

田中:まず、今のSDGsの現状っていうのは、昨年、国連事務総長のグテーレスさんがいらっしゃって、厳しいコメントを残されたっていうのがすごく印象深かったです。「Decade of Action」、いわゆる「行動の10年」っていうフェーズに入っていて、現在では、メディアでもすごく報道されるようになって、私はとてもいいブームに、ムーブメントになっていると思いますけども、蟹江先生の研究者としての視点とか、「グローバル持続可能な開発報告書」(GSDR)2023版の執筆者にもなられている中で、お感じになっていらっしゃることを教えてください。

蟹江:世界の現状としてはかなり厳しいというのが今の状況で、この前、国連総会でSDGサミットがあったのですが、そこで出てきたものも、折り返し地点なので、ちょうどほぼ真ん中なのですけれども、50%の地点ですよね。なのですが、達成率は15%しかまだできていないと。なので、まだこれから85%をやらなければいけないという厳しい状況ですね。加えて、パンデミックの影響が非常に大きかったと。予測していなかったようなことですよね。それから気候変動、地球沸騰化というかグローバルボイリングという、もう地球が沸騰しているというメッセージが出てきたりとか、それによっていろんなコストがかかってきていますので、そういった影響ですね。それから、今もウクライナも、それからイスラエル、パレスチナ、いろんなところで戦争が起こっていまして、世界の人口の4分の1を超える人々が戦争の、紛争の地域にいるという、第2次世界大戦後最悪の状況になっていると。
この3つですよね。パンデミック、気候変動、それから戦争の影響、この3つが進捗を大幅に遅らせる要因なってしまっているということなのですが、とはいえ、この状況はこれからも続きかねない。パンデミックにしてもまた来るかもしれないといわれていますし、気候変動も、これからもっと暑くなることが予測されているわけですよね。戦争も早く終わってもらいたいですけれども、どうなるか、不確実性もあるという中で、次のそういった予測不可能な出来事への備えとしてのSDGsというのの重要性が高まっているっていうのが今の状況かなと思います。

田中:いわゆるSカーブで変革っていうようなことを提言されていますが、こういうことをしていく中で、進捗をより進めていくとか、こういうところも研究なさっているという理解でよろしかったですか?

蟹江:そうですね。われわれとしては現状の評価をしながら、残り7年で達成するということを考えると、もう変革を加速するしかないと。SDGsをやってきた国連文書自体が、変革をするということがタイトルになっているくらいなので、じゃあこれからどうやって変革を加速していくのか。
変革の根っこというか、芽生えというか、そういうところはかなり見られるようになってきているんですよね。ただそれが社会全体に広がらないと、やっぱり変革しているとはいえなくて、いいことをやっていてよかった、で終わってしまうので、じゃあそれをどうやって広げていくのか、その広がっていくような芽をどうやって見つけて育てていくのか、そこが大事だということで、われわれのGSDRの中での報告も、そこをメインに取り上げているということですね。


サステナブルな会社を認証する
B Corpが世界的に広がっている。

田中:例えば、評価していく。今、社会にいいことをやって、それで終わっちゃいけないっていうお話がありましたけど、まさにおっしゃるとおりで、結局、いろいろ枠組みの中で評価軸をどうしていくか。当然ながらSDGsっていうフレームの中にも指標がありますので、このインジケーターをこうやって達成するためにいろんな目標設定をしていけばいいっていう概念はありますけども。
例えば、サステナビリティの切り口でいくと、今、金融庁、特に、金融業界がインパクト評価だとかインパクトファイナンスだとか、そういったところで影響度合いを測る視点、ようやく枠組みができました。SDGsになぞっていくと、岐阜県では、SDGs推進パートナー制度っていうのを組み立てていますが、蟹江先生はいろんなところを見ていらっしゃると思いますけど、このような動きをどのように見ていらっしゃいますか?

蟹江:SDGsができたときから、やり方は自由なので、とにかく測るということが大事だと。ようやく金融業界は測り始めた。これがほかのところにも広がっていくと思うんですね。というのは、この話って結局、次の成長がどこでどう起こっていって、世界をどう支配していくかっていう話なんですよね。AIとかデジタル化にしても、どっちの方向にも行くわけですよね、持続可能な方向にも悪い方向にも行きうる。だけど、それをいかに持続可能な方向に進めていくか。
ということは、それが持続可能な方向に進んでいるということをちゃんと測らなければいけない。投資の人たちはまずお金を使うので、スタートしていますけれども、ヨーロッパの国々を中心に、やはりこの測るということがメインになりつつあって、測るということは、次に来るのは標準化なんですよね。測った上で、ここを基準にしようということなんで。それができてしまうと、基準に合わないところは、要はだんだん追い出されてしまうということになっていて。経産省にも5年ぐらい前からずっといっているのですが、なかなかそこに気づいて触れていない。ようやく昨年ぐらいから、あれ、もしかしたらこれって標準化大事なのかなって思い始めているような感じですけれども。
なので、先進都市の方で、あるいは地域の方で、むしろそこを先導していくということが私は大事だというふうに思っています。その方が単位が小さいので動きやすいと思うんですよね。いいこともやりやすいと思うんですよね。そういう意味で、登録制度は大事だと思いますし、あとはやっているということ、サステナブルな方向に向かっているっていうのをやっぱり認め合う、認めるっていうことが大事だと思うんですね。
それって認証制度で、実際、今、B Corporationっていう、サステナブルな会社を認めていくっていうような世界規模の認証システムがすごく広がってきていて、もう認証が追いつかないっていう状況なんですよ。そういったところをしっかり見ながらやっていくのが必要だというふうに思っていますし、われわれの、実は、企業の方々とコンソーシアムを組んでやっているのですが、そこでも実は今回、共同研究で、特に、中小企業向けの認証システムをつくり始めています。なぜそれを始めたかというと、今、内閣府でいっているのは地域ごとの認証制度をつくりましょうと。ただ、行政ってなかなか認証できないんですよね。

田中:そうですね。

蟹江:それができないということもあり、それから地域に閉じてしまうと、こっちはいいけどこっちは駄目だとか、ちょっとばらつきが出てしまうので、内閣府の方とも連携しながらどこでも使えるような認証制度というのを。
さらにこの先に来るのは、業界別の認証。自分たちは、サステナブルなんだというのがわかるようなものがあると投資もしやすいですし、消費者も買いやすいですし、という流れができてきて、差別化もできると思うんですね。そっちの方向にいくんじゃないかなというふうに見ています。

田中:まさに中小企業の促しというよりは、もっとやりましょうよ、やれますよというようなところの後押しみたいなところってすごくやっぱり要るんだろうなって。それはローカルでないと解決できない問題はたくさんありますので。そこはには、大企業と中小企業の連携も重要で、本当にSDGsをフレームにしながら事例をどんどんつくっていくことによって、文字どおりの共創ができてくると考えています。

蟹江:そうだと思います。


SDGsで必要なのは連携する、
できないところは補い合うこと。

田中:今、おっしゃっていただいたように測るっていったところからの、いわゆる標準化みたいなことにつながっていくと、すごくいい、なんていうんですかね、納得感というか。

蟹江:そうなんですよ。それがあると、たぶん地方創生なんかも実はすごくやりやすくなる。地域でいいものが実はいっぱいあるけれども、埋もれていたりとかわからない状態のものが、それによって掘り起こされてくると思うんですよね。なので、もう早くそっちをやるべきだと思いますし、まさにそれこそが私は成長戦略の中核になる話なんじゃないかなというふうに思っています。

田中:本当にそういった面では、行政でできないことを民間で結局やっていくこともできるし、そこはやっぱりいろいろお互いの連携を強めることっていうのがすごく大事だなと。あまりいうと怒られますけど、いろいろ縦の枠組みをぶっ壊しながらやっていくことが大事だと思いますし、さっき、中小企業の話をされましたけど、特にやっぱりカーボンニュートラルなんかも、そういう動きも経産省をはじめ出てきているのはいいことだなと思いますので。

蟹江:やっぱりSDGsで必要なのは連携する、できないところは補い合う。目標も全体で1つのものっていう、だからシステムなんですよね。というところが大事なんですけれども、当然のごとく、行政機関に入ってしまうと縦割りになってしまうと。国なんかもその典型ですよね。それはそれでもちろんいいところはあるのですが、ただ無駄も非常に多くて、もうちょっとこことここと同じことやっているのだからつなげれば、その2つを結びつけるだけでもいいことができるのにということを思ったりするのですけれども、管轄が違うから、あっちができないとかっていうことになってしまっているので、それを少しでもやりやすくするためにSDGsというのを使う必要があるんじゃないかなと思いますね。SDGsは、だからそういう意味じゃ、ツールの1つじゃないかなというふうに思います。

田中:先生からそうやっていっていただけると、みんなの後押しになると本当に思います。なので、私も結局、こういうことをやらせていただいていて、ある意味では自分たちの本業を強みとしながら、いろんな連携ということを切り口にやっていくんですけども、当然ながら、われわれもそれをもってさらに強くなるっていうことが根っこにあります。先ほど、認め合うっていうお話をされましたけど、そこには実はパッションだとか、本当にふれあうっていうことがまず大事ですし、意外とゴールの17番ってみんな理解しているんですけど、行動に移すのが実は日本人、痛しかゆしの部分が結構あるので。

蟹江:ただ、やっぱり認め合うとか連携するとかって、デジタル化がすごく親和性が高いんですよ。「いいね」いうのもやっぱり認め合うっていう仕組みですし。だから、このデジタル化で、みんながデバイスを持っていて、発信もできるし情報の受け取りもできる。そこでネットワークもできるっていうところをいかにうまく活用していくかっていうのが鍵だと思いますし。
国連事務総長が今年のSDGサミットの演説の中で、いくつか鍵となる、これからのSDGs推進に鍵となるところっていうのを挙げたんですね。6つプラス1、プラス1っていうのはジェンダーなんですけども。というのを取り上げて、そのうちの1つがやっぱりデジタル化なんですよ。そのほかのものはだいたいのSDGsの目標にある木だとか再エネとか、そういったものを強調することで広がりが出ますよと言っていたのですが、デジタル化っていうのは特に取り上げられた目標ではないんだけれども、やっぱり横断的にすごく、この今の時代にSDGsを推進する上の力になるものだと思います

田中:私も講演させていただくことがあると、本当にシンギュラリティーの世の中になって、正解のない時代に正解をつくりにいくようなものなので、やっぱりデジタルを駆使して、その手法を具体的にどんどん問うていくっていうことが大事ですよね。

蟹江:そうなんですよね。だからデジタルがあって、なんか使えるような感じがするなっていうのはわかるんだけども、具体化していくと、だんだんみんなわからなくなっていくので、やっぱりそれをどんどん示していくっていうのが大事で。アワードなんかでやっぱりいいところを取り上げても、そこからそれをじゃあどうやって次のステップで広げられていくのか、広げていけるのか。それを考えるというのが非常に今、大事だと思いますし、逆にいえば、やっぱりそれはビジネスチャンスなんですよね。そのチャンスをつかむ可能性が、このデジタル化の社会ではもういろんなところにあって、中央とか地方とか全然関係なくそれがあるので、そのチャンスをつかんでいただきたいなというふうに思います。

※シンギュラリティー・・・シンギュラリティー(技術的特異点)は、人工知能が人間を上回る知性が誕生するという仮説


先進的なSDGsをどんどん発信する岐阜県になってほしい。

田中:最後に、ぜひ岐阜県のSDGsにエールというか、メッセージをいただければ。どんどんやっていけよでもいいですし、お感じになっていらっしゃることを。

蟹江:実は今年、SDGサミットと、もともとの計画ではもう1つサミットが開かれる予定で、それ、The Summit of the Futureっていう未来サミットなんですよね。なんですけど、ちょっと2つやるのはあまりにも重いっていうことで来年になったのですが、Futureなんですよ、Future、未来。未来のことをやっぱり考える。その1つのブロックっていうのが次世代なんですよね。

田中:われわれも様々な事業で、未来世代の高校生とか大学生を巻き込んでいて。ビジネスセクターや行政の職員だけではなくて、いろんなジェネレーションのギャップを超えたようなところの話ってすごくやっぱり大事なことだと思います。

蟹江:そうですね。次世代を取り込みながら、取り込むだけじゃなくて、いかに本格的に仲間になってもらうかっていうところが非常に大事で、そういった取り組みがすでに行われているってお伺いして、それはすごく先進的なところだと思いますし、やっぱりここから先はデジタル化の世の中でもありますし、先進的なものがどこから出てきてもいいんですよね。昔だと東京とか大阪とか大きいところからしか出てこないのかもしれない世の中でしたけど、今、どこから出てきてもいいので、ぜひそういうのがばんばん出てくる岐阜県になっていただきたいなというふうに思います。

田中:蟹江先生、ありがとうございました。またわれわれも本当にしっかりがんばって、SDGs推進の1つの渦になれるように。

蟹江:そうですね。ぜひ。

田中:また、発信も本当に大事だというふうに思いますので、しっかりやっていきたいと思います。今日はありがとうございました。

蟹江:ありがとうございました。

田中が事務局長を務める「環境SDGsおおがき未来創造事業」高校生と大垣市の未来について語る一コマ
岐阜県では「ぎふSDGs推進パートナー制度」が開始された

Re:touch Point!

2030年のSDGs達成まで残り85%、岐阜県から変革を起こしていきたい。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
日本で唯一のGSDR2023の執筆者である蟹江憲史教授にお話を聞くことができてとても感動している。SDGsの達成率が15%にとどまっていること、そんななかでも変革が起き始めていること、今世界で起きているリアルな話しうかがうことができた。
Re:touchをコアに推し進めている、小学生から大学生まで次世代を巻き込んだ取り組みを、先進的なことだと高くご評価いただいた。
また、ネットワーク社会が進展する現代においては、こうした変革はローカルでも可能になっており、これからも先進的なSDGsをどんどん発信する岐阜県になってほしいとエールをいただいた。
これまでやってきたことが間違いではなかったと確信するとともに、2030年に向けて残りの85%を達成するために、少しでも貢献して行きたいと勇気が湧いてきた。