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子どもたちが変われば、地域の未来が変わる。

郡上市立郡南中学校 教諭 末松 崇芳 一般社団法人郡上ふるさと定住機構 興膳 健太 郡上市立郡南中学校 校長 三島 晃陽 郡南中学校 SDGsスクール・アドバイザー Re:touch エグゼクティブプロデューサー 田中 信康 Special 対談

PROFILE

三島 晃陽(みしま こうよう)さん(写真左側・左端)

2021年、郡上市立郡南中学校に校長として赴任。郡上の未来を託す子どもたちを育てたいと、赴任当初からSDGsの視点で学校教育に取り組み、SDGsスクール宣言をする。現在では、郡上市のひと・まちづくり推進プロジェクトSDGs源流education実証校や郡上市教育委員会の研究指定校に指定され、地域ぐるみの持続可能な地域社会の担い手づくりを主導。

末松 崇芳(すえまつ たかよし)さん(写真左側・右端)

2021年、三島校長と同時に母校である郡南中学校に研究主任として赴任。地域との太いパイプを生かして子どもたちのSDGsへの取り組みをサポートするなかで、2023年3月には、子どもたちと地域の飲食店などが共同で開発したメニューなどを販売する「郡南マルシェ」の先頭に立ち、30分で売り切れるほどの大成功を収める。

興膳 健太(こうぜん けんた)さん(写真左側・中央)

2007年、岐阜大学を卒業と同時に郡上に移住。福岡の出身で、猪や鹿などの狩猟体験など自然体験を運営する里山保全組織「猪鹿庁」の長官を務める。一般社団法人郡上ふるさと定住機構の活動の中で、三島校長や末松先生と出会い、以来、「総合的な学習の時間」のフィールドワークなどをコーディネートしている。

Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康(たなか のぶやす)(写真右)

郡南中学校がSDGsスクール宣言をした新聞記事を見て、三島校長とコンタクトを取ったことから、2021年にはSDGsスクール・アドバイザーに就任する。2021年に、郡南中学校校区の小中学生にダイアログを実施したほか、2022年には、郡南中学校のPTA家庭教育学級や郡上市小中学校校校長会でSDGsをテーマに講演。郡南中学校の中間報告会にも招待されている。

2021年4月、郡上市立郡南中学校でSDGsへの取り組みが始まった。地元郡上市の中学校に赴任してきた三島晃陽校長の強いリーダーシップだったが、郡上の未来を託す子どもたちを育てたい。また、教員生活も終盤を迎えた教育者として、地域へ恩返ししたいという想いもあった。
2021年9月には、SDGsスクール宣言。学校教育のなかでSDGsに取り組んでいくには現場の先生方の理解と協力が不可欠だが、三島校長と同時に赴任してきた末松崇芳先生の存在が大きかった。末松先生も郡上の美並町出身で、地域との太いパイプが役立った。そこに現れたのが、2007年に郡上に移住してきて里山保全組織「猪鹿庁」の長官や一般社団法人郡上ふるさと定住機構に所属されている興膳健太さん。
「総合的な学習の時間」のフィールドワークをコーディネートしてもらっていたが、2023年3月には、末松先生が中心になって、子どもたちと地域の飲食店がメニューなどを開発して販売する「郡南マルシェ」を開催。三島校長の想いが郡上の人から人へ広がり、今では地域ぐるみで郡南中学校のSDGsを応援するようになっている。
今回は、郡上で次世代の人材育成に尽力されている三島校長、末松先生、興膳長官にお話を聞いた。

Movie

SDGsスクール宣言をして、中学校でSDGsに取り組む。

田中:郡上市立郡南中学校では、三島校長が赴任されてから2021年にはSDGsスクール宣言をされて、持続可能な社会の担い手づくりをされているわけですが、具体的にはどのような取り組みをされているんですか?

三島:SDGsについては、SDGs×清流長良川について総合的な学習の時間を中心として、教科や朝活動においても取り組んでもらえるようにしています。また、生徒会でも、全校参加のスポーツイベントを、誰一人取り残さない大会にしようとしてくれています。

田中:生徒たちも主体的に活動してくれているんですね。

三島:はい、このような生徒を生み出しているのは総合的な学習を中心としたSDGsの探究学習です。本校の総合的な学習の時間の特徴は、3年間の探究課題を「SDGs×清流長良川 世界農業遺産鮎が生息する清流長良川を私たちの手で持続可能な世界に誇れる清流長良川へ!」としていることです。1年生から3年生までのこの大きな探究課題の解決に向けて、各学年で取り組みながら、最後3年生は郡上市の清流長良川をはじめとする大自然の魅力をたっぷり味わってもらえる教育旅行を考えています

田中:長良川は、郡上はもちろん日本の宝ものですもんね。

三島:郡上市のひと・まちづくり推進プロジェクトSDGs源流education実証校のほかにも、2022年度からは郡上市教育委員会の研究指定校にも指定されて、地域ぐるみで応援してもらえるようになりました。ただ、この取組は校長一人ではできないので、まずは本校の職員の理解と協力があって成り立っていることです。職員がこの取組を楽しんで行ってくれていること、その中心は本校が母校でもある末松先生がいてくれたことがとても心強かったですね。また、NPO法人里山保全組織「猪鹿庁」の長官をされている興膳さんの存在が大きかったです。本校の総合的な学習の時間がダイナミックに展開できているのは、興膳さんのネットワークにより、色々な人材や活動の場をつなげていただけ、その中で職員とも相談しながら生徒にとってよりよい学びの場を提供できていることです。

田中:私も2021年から郡南中学校のSDGsスクール・アドバイザーをさせていただいていて、総合的な学習の時間の中間まとめ会などにご招待いただいたりしているんですが、持続可能な地域社会の担い手づくりをしたいという三島校長の想いが人から人へとどんどん広がってきていますね。

三島:そうですね。昨年度、この広がりが実感できたのは2023年の3月に開催した「郡南マルシェ」でした。当日は500人を超える人に来場していただき、地域も大変盛り上がりました。生徒にとっても、地域企業の方と持続可能な取組や、地元野菜を使った商品を開発することに携わることができたことは、地域に参画していく第一歩となる貴重な体験となりました。このような取組を通して、地域に貢献することの意義、やりがいを感じてってくれたと思います。


まちづくりに興味があって、地域科学部に3年次編入。

田中:今回は、こういったお話を詳しくお聞きしていきたいと思いますが、興膳さんは郡上に移り住んでこられたとお聞きしていますが。

興膳:私は出身が福岡で、岐阜に来たきっかけは、大学なんですね。3年次編入で。

田中:岐阜大学でしたね。

興膳:地域科学部に編入したんですが、まちづくりに興味があって、「地域科学部」という学部名だったんで。私の卒論のテーマが「持続可能な地域社会をつくる」というもので、学生が持続可能な地域づくりにアプローチするにはどうしたらいいかみたいな。そこで、学生が岐阜のまちを好きになるようなフリーペーパーを手伝ってみたり、あとは、起業まではいかないんですが、カフェの一角を借りて駄菓子を子どもたちに売ってみたりとか。

三島:学生のころから?

興膳:そうです。子どもたちを集めてコミュニティをつくって、どうやって郷土愛を育むかみたいな実験をやっていたんです。ただ、託児所みたいになってしまったので、カフェに迷惑をかけるって撤退しましたが。

田中:また変わったことを(笑)

興膳:そんな時に、たまたま郡上出身の先輩がいて、田植えとかの手伝いに連れていかれて。そしたら、おばあちゃんとかがものすごくもてなしてくれて、これうまいだろう、あれ食えこれ食えみたいな、もうなんかやたらよくしてくれて。地域科学部では地域学実習といっていろいろな地域へ行く機会があるんですが、過疎地へ行くとネガティブな話を聞くことが多いんですね。ところが、郡上では、いいだろう、うめえだろうみたいな、どんどん自慢されてきて。郡上おどりにも連れてってもらったりとか、あとは、鮎の夜イカリとかもこうやって取るんだぞって、ちょちょちょっと捕って、その場で焼いて食べさせてくれたりとか。いや、これ、めっちゃかっこいいなと思って。

田中:鮎が眠っている夜に、川に潜って取るんですね。郡上の鮎って、なかなか食べられないですよ。

興膳:私のなかには仮説が一つあって、2年間、福岡の大学にいた時に、環境教育のサークルをつくっていたんですね。その時に、環境問題を解決するアプローチは、みんなで情報を共有しないとって思っていました。だから、あと何年で石油がなくなるとかを子どもたちに伝えようと、劇をやるNPOに入ってみたりとか、冊子つくることを手伝ったりみたりとかいろいろやってみたんです。ところが、やっているのがしんどくなってきて。というのは、子どもたちを脅かしている感じがしたんですね。子どもたちは何も悪くないのに、あと何年でやばいからやろうよって、それおうちの人にいった方がいいよみたいな、そのやり方がしんどいなって。

田中:本当は大人が悪いのに。


郡上って、郷土愛がすごく強い地域だなあって。

興膳:たまたま福岡県からドイツに研修に行かせてもらう機会があって。私のホームステイ先の高校生がまちを案内してくれて、観光地でもない普通の郊外のまちだったんですが、ここが好きなんだよねって語ってるのが片言の英語で理解できて、おー、なるほど、かっこいいなと思ったんですよ。自分の住んでるここが好きだって。福岡も九州を代表する都市で、食べ物もうまいし、おしゃれな女性も多いし、福岡にはもうすべて満足していて、福岡が好きだっていっていたんですが、私が福岡が好きだといっているのと彼がいってる好きだはまったく違うなと思って。

三島:見ているところが違うっていうか。

興膳:そうなんですよ。そんなことから、私は自分のまちが好きだっていう子どもたちが増えると、持続可能な地域社会づくりに自発的に取り組むようになって、好きだからやっているよ、ごみを捨てないよとか川をきれいにするよとか、好きだからっていうアプローチをやりたいと思って。岐阜にいた時も、そういう自分のまちを愛せるようなフリーペーパーを作るのを手伝ったりしていました。

田中:すばらしいですね。

興膳:そうしたなかで郡上を知った時に、郡上の人たちが自分のまちを好きすぎる、郷土愛がすごく強い地域だなって感じたんです。ああ、私もここの一員になりたいと思って、大学卒業したらとりあえず郡上で就職したいってところから始まっています。

三島:すごいですね。

興膳:郡上八幡自然園というキャンプ場が、4月から10月までのグリーンシーズンに働けるスタッフを募集していたんで、2007年4月から郡上で暮らすようになりました。それから、郡上の大自然で、川遊びや魚つかみ体験、バームクーヘンづくり、カヌー体験、洞窟探検などを楽しんでもらう「メタセコイアの森の仲間たち」というNPO法人に入りました。

田中:15年以上も前から、郡上で暮らしていらっしゃるんですね。

興膳:子どもたちに、自然を好きになってもらうことをずっとやっていました。そのNPO法人も、私が入ったタイミングで先代の代表が辞めちゃったんですね。私が出しゃばってまたいろいろやっていたら、3年目におまえここの代表になれっていわれて。冬の仕事がもともとなかったので、冬の仕事をつくろうと思って、岐阜県のプロポーザルを受けて猟師事業を始めました。

田中:それで、「猪鹿庁」になったと。花札を文字っていて、なかなかユニークなネーミングですね。

興膳:いわゆる山の猟師ですね。冬に何かできないかと思った時に、猪の肉は美味しいし、これを何とかしたい思って。猟師によるジビエ体感ツアーや毛皮なめし講座、狩猟キャンプ・ワークショップなどを行っています。

田中:里山を荒らす猪や鹿を駆除することにもなって、里山の保全にも貢献されているというわけですね。

興膳:私は、郡上のおもしろそうなものに首を突っ込んで、ちょっとお手伝いして事業化させるっていうことをずっとやってきているんですね。そんな中で、郡上カンパニーっていう郡上の雇用創出と移住促進の2つを同時にやっちゃおうっていう施策が始まりました。もうめっちゃおもしろそうだったので、私から仲間に入れてくれっていって手伝わせてもらったんです。そのメンバーはみんな移住者なんですが、私が一番古株の移住者で、本当にいろいろなことに首を突っ込んできました。例えば、商工会の青年部なんかでも8年ぐらい副部長をやったりとか、郡上のいろんな人とのつながりがあったんで、移住者と地域をつなぐ役割を担えるってことで。

田中:本当にいろいろなところに首を突っ込んでいらっしゃいますね。


郡上に移住してきた人が、郡上人になりきっている。

興膳:そこで知り合ったメンバーが、郡上のひと・まちづくり推進プロジェクトを立ち上げて私もそのメンバーとして名前を連ねていましたので、郡南中学校の取り組みのことは聞いていました。そのプロジェクトで、郡南中学校でSDGs清流educationというプログラムを作って、全面的に応援していこうということになったんですね

三島:このことをきっかけとして、興膳さんと知り合うことができました。

田中:興膳さんは移住・定住が叫ばれる前に郡上に移住されてきたわけですが、大学時代にまちづくりに興味を持たれたのもずいぶん早かったのではないですか?

興膳:そうですね。私が小学6年生の時に、担任の先生から、『今「地球」が危ない』っていう地球環境白書を見せられたことがあって、小学生ながら絶望したことがありました。何でこんなに大変なことになっているのに、大人たちは何もしないんだと怒りを覚えました。それから、作文なんかでも過激なことを書いたりとか。

田中:そんな少年時代の体験がきっかけだったんですね。

三島:その先生もすごいですね。それが、私たちの仕事なんですね。子どもたちのハートに、いかに火をつけるか

興膳:そうですね。そういう意味では、好きとかじゃなくて、大人たちへの怒りからでしたね(笑)。

田中:私は大垣生まれの大垣育ちなんですが、どっかへ行っちゃった人間なんですよ。ですが、ご縁があって大垣に引き戻されてきて、自分が生まれ育った大垣を誇りに思えるものにしていきたい。無謀にも大垣だけじゃなく、岐阜全体をそうできればっていうのが、このSDGsのポータルサイトを始めるきっかけでした。興膳さんに最初にお会いした時、とてもパワフルで情熱のある方だなって思いましたが、それは大人たちへの怒りからきているんですね。

三島:郡上のなかでも特に美並という地域は、移住してきた方たちが郡上人になりきっているのがすごいと思います

興膳:私がよくいっているのは、郡上おどりがあるからだと。よそ者をだれでも輪のなかに入れてくれて、一緒に踊らせてくれる。よそ者がふわっと地域のなかへ入ってきても、みんなで歓迎してくれる風土があると。もっというと、移住者が移住者を呼ぶってみたいなところもあって、熱い人が仲間を呼んできちゃうって感じですね

三島:移住されてきた方とお会いすると、郡上にずっと住んでる方よりも郡上が好きで、本当に愛しているっていうことが、その行動からもわかりますよ。

田中:私も、近藤正臣さんのご自宅にお伺いして取材したことがあるんですが、おお、おまえ、ここはもう最高だぞって。近藤正臣さんも引き寄せられるようにここに来たんやとお話しされて。ここの人がええんやとおっしゃっていて、きっと郡上は移住者を受け入れる許容力みたいなものがあるんですね

興膳:そうですね。

田中:興膳さんは、三島校長に初めてお会いになって、どのような印象を持たれましたか?

興膳:本当に頭の切れる、できる校長先生だなって。いろんなことが速いので、こちらもしっかりしないと。

田中:私も同じことを思いました。

興膳:だいたい枠組みは作っていただいていたので、私はアイデアを少しプラスするくらいで、安心して乗っかっていけましたよ。

田中:三島校長はどうでしたか?

三島:興膳さんは、やっぱり子どもたちが好きなんですよね。このことは、学校に入っていただく方にとっては大前提であって、興膳さんは子どもたちを第一に考えて授業や活動を考えてくださる方で、この方ならすべてお任せしてもいいだろうってお話を聞いていて実感しました。もちろん、興膳さんのこれまでの経験や、幅広いネットワークは魅力でしたし、私たちがやろうとしてることをバックアップしてもらうには適任だと確信をしました。

田中:まさに奇跡の出会いでしたね。

三島:興膳さんは移住者とは思えないほど、郡上の民間企業や行政団体とつながりがあって、いろいろと橋渡しをしてもらえるのもありがたいですね。


子どもたちも、おもしろいって顔を見せてくれる。

田中:SDGsスクール宣言されたわけですが、先生方にご理解いただくことも大変なことでしたね。

三島:そうですね。校長として何を目指すのかを示し、夢を語り続けたことで職員にも浸透し同じベクトルで動けるようになってきたことです。また、取組を発信していくことで、地域の方をはじめ、行政も企業からも賛同が得られ、その輪が広がり多くの方からのお力添えのおかげで本校のカリキュラムが成り立っています。

興膳:本当にそうですね。

田中:郡南中学校に赴任された時に、やれそうな雰囲気だったんですか?

三島:私も郡上を離れて久しいので、先生方も知らない方ばかりでしたので、これから目指していくことをきちっと伝えました。私は、中学校であっても体験がなければ深い学びにはなっていかないと思っていますので、とにかく遊ばせよう。遊ぶっていう表現はよくないかもしれませんが、自然のなかへ入っていかないことには自然のよさもわかりません。また、今のお子さんにはこのような体験も少なく、豊かな体験や人との出会いが必要であると考えてみます。このような学びこそが、「地域が好き」「郡上が好き」のベースになってくると思います。そのため、本校の総合的な学習の時間のカリキュラムではフィールドワーク(校外活動)と出前授業(外部講師)とが手厚くなっています。先生方には、生徒と一緒に遊んで、一緒に学んでというスタンスでやっています。

田中:新任の校長から遊んでくれといわれて、先生方もさぞびっくりされたことでしょう。

三島:あとは、すてきな方が郡上にはいっぱいいることがわかってきて、その方をお招きして、生徒とふれあってもらうことに力を入れました。田中さんもそうなんですが、興膳さんとかがんばっている大人に出会わせていくことに、1年目はかなり時間をかけました。

田中:このインタビューを読まれて、うちの学校でも、うちの地域でもやりたいと思われる方もいらっしゃると思いますが、学校長の立場としてはどんなことがポイントだと思われますか?

三島: やっぱり、校長がきちっとビジョンを伝えることだと思いますね。何がやりたいのかを、ぼんやりじゃなくて具体例を交えながら、先生方にしっかりと理解してもらう。そして、カリキュラムを実現するために、まずは校長が人材を見付け、予算化をしていくことです。1年目は、岐阜県庁を駆けずり回って、予算をみつけてきました。予算化できると人材を招聘することができます。先生方に、「やれるんだ」ということを実感してもらうことが大切です。やってみておもしろいっていうことを先生方にも経験してもらうとです。先生たちがおもしろいと感じることは、子どもたちも同様に、おもしろいって顔を見せてくれます。その顔を見れば、先生方も、ああ、やってよかったなって思ってもらえ、じゃあ、次もやってみようという思いをもってもらえます。これをうまく循環させていく仕掛けをつくっていけたのがよかった思っています。
たぶん1年目はしんどかったと思いますが。


子どもたちに、郡上のよさをたくさん知ってほしい。

田中:末松先生どうですか?

末松:さっき三島校長がビジョンって言いましたが、3年前、三島校長と一緒に郡南中学校へ赴任してきて、最初の職員会の時にこのペーパーを配られたんですよ。

田中:郡南中学校で取り組んでいくSDGsがまとめられていたんですね。

末松:お恥ずかしい話ですが、SDGsとかぜんぜん知らなくて。その時に、SDGsとは何ぞやってことを話してもらって、それで、こういうことをやっていきたいっていうところを聞いて、三島校長がどれだけ教育のことを大事にされているのか伝わってきて、それが非常に大きかったと思います。

田中:1年目は本当にしんどかったですか?

末松:SDGsへの取り組みは、赴任して2年目の2022年の4月がスタートだったんですが、最初、何をやっていいかわからないとこからスタートして、1年生のアウトドアフェアということで、川でいろんな体験をすることをまずやっていこうと。私の同級生たちが身近にいてくれたこともあり、みんなに助けてもらいながら、何とか無事にやることができました。そこで初めて感じたのが、やっぱりやったらやったで、子どもたちがとてもいい顔をしていて。

田中:やっぱりそこですよね。

末松:そうですね。それで、おもしろいなって思いましたね。これをやる価値というか、そのたびに、大変な思いをしているんですが、子どもたちの姿とか表情で返ってくるので。最初は、三島校長に引っぱってもらっていたんですが、ほかの先生方もきっとそうだと思いますが、自分たちが興味を持ってこういうことをやっていきたい、子どもたちと一緒にこういうことをやっていきたいってところに、今は変わってきてるというのはすごく感じますね

田中:先生がおもしろいと思ってやってらっしゃることは、子どもたちにもしっかりと伝わるんですよ

末松:それはありますね。

田中:あと、郡上のご出身なのも、すごく大きいですね。

末松:はい。私は川大好き人間で、本当に小さいころは郡上の川でずっと遊んでいて、鮎釣りとか、アマゴとか、川遊びとか。だから、ずっと郡上にいたい、郡上の自然を感じていたいっていうところがあって。子どもたちにも郡上のよさをたくさん知ってほしいと。

田中:そこが、とてもリアルだと思います。

末松:そこが、今やってることとちょうどつながっていて、うれしいなって。

田中:SDGsにかぎらず、先生も生徒も自発的にやられているところが、理想の教育の現場なんだろうなって思いますし、やっぱり郷土愛みたいなものが根っこにあるんですね

末松:そうですね。

三島:私は、郡上で教諭として4年しか勤務していないこともあり、郡上に何か恩返ししたいというのがあって。それには、ふるさとの郡上を好きになってくれる子どもたちを育てることだと思ったんですね

田中:私も、大人になって少しでも大垣市の力になれないかということで、大垣市で「環境SDGsおおがき未来創造事業」に携わらせていただいているんですね。大垣市の高校生たちに地域の企業のことを知ってもらい、企業が抱えている社会課題にアイデアをもらおうというものですが、高校生たちの目の色がだんだんと変わってくるんですよ。そこにあるのは、やっぱり地域への想いなんですね

三島:そうなんですね。


こんなにリーダーシップのある校長には、
これまで出会ったことがなくて。

田中:興膳さんのお立場からは何かありますか?

興膳:学校に関わりたいと思った時というか、子どもたちに関わりたいと思った時に、学校って校長が社長だというのが認識としてあって、校長の想い一つなんだというのを三島校長と出会って改めて思いました。ここまでリーダーシップのある校長には、正直、出会ったことがなかったので。2023年の「郡南マルシェ」も、実は計画にはなかったんですよ。もう降って湧いたような話で、ここまでのことがやれるのかみたいな、でもやれちゃったみたいな。しかも、たくさんのお客さんに来てもらって、大成功してしまうんですね。

田中:興膳さんのような方へのアドバイスはありますか?

興膳:中学校もそうなんですが、地方自治体も異動があるので、これをどうサポートしていくかが課題ですね。それについても、三島校長はだれでもできるようにしていらっしゃるし、予算のこともいろいろとご算段いただいているので、本当に郡南中学校はこれからどんどんおもしろくなっていくのではと思います。

田中:子どもたちの目はごまかせませんからね。郡南中学校でも講演をさせていただいたことがあるんですが、本当に情熱を持って伝えないと見透かされるっていうのがあるので。私は、大垣市や岐阜市、首都圏などの小・中・高、大学などで話させていただく機会がありますが、小学校が一番怖くて。

三島:小学生の見る目はすごいですからね。

田中:これは本当に強烈で、うそのないものを見せていかないとだめだなと、すごく思います。

興膳:そうですね。

三島:今は、志摩市と何とかつながれないかと考えています。郡上市と志摩市が姉妹都市なんですね。

三島:長良川の源流と長良川が注ぐ伊勢湾までの長良川流域の中学生の取組に拡大して生きたと思っています。志摩市もSDGsに取り組まれていますので、観光協会や行政とも連携を図りながら進めていきたいと思っております。

田中:本当に、いろいろなコラボレーションができる時代になってきましたね。

三島:そうですね、やりやすいと思います。

田中:民間企業でも、大きな会社が一緒に製品開発する時代なんで。

三島:それに、今年は、郡上市内の中学校をもっとつないでいきたいと思っていて、コロナ禍でオンラインがこれだけ普及したので、もっとそうしたツールを活用して。本校の生徒会が八幡中学校や明宝中学校とやっているんですが、郡上の中学生たちが意見を言える場をつくりたい。郡上市には生徒会交流会っていうのがあって、それをせっかくなのでもっと長期のスパンでやって、学校のリーダーはこれからの地域のリーダーなので、こうした子どもたちを鍛えいきたいと思っています

田中:すごく期待しています。また、三島校長や末松先生、興膳さんがやっていらっしゃることを、岐阜のなかで広めていきたいですね。郡南中学校のようなところがもっと出てくればいいなって思います。私は、SDGsにこだわっているのではありませんが、でも、SDGsで提言していることは間違いなく人類の危機、さっきの興膳さんの話じゃありませんが、大人たちもこれから避けて通れなくなっていますので、私たちはやれることはどんどんやっていかないと

興膳:郡上の人たちは熱いですよ。子どものことなら協力するよという人たちが本当に多いんです。みんな郡上のことが好きな人たちばかりで、末松先生みたいに自分が遊んできたところだからって。

田中:すばらしいですね。

興膳:郡上に思い入れがある民間企業も多くて、郡上のことならみたいな感じで。本当にこうした想いをつないでいけば、ちゃんと線や面になって広がっていきますよ。今、学校ごとに学校運営協議会ができていますよね。

田中:そうですね。

興膳:私は、郡南中学校のこうした取り組みを持続可能にするためにも、学校運営協議会に予算を持ってもらえたらと思っています。郡南中学校はSDGsのモデル校にはなっていますが、学校運営のモデル校みたいにならないかと


子どもたちが考えたメニューは、
ものの30分で完売になって。

田中:郡南マルシェもそうなんですが、郡上の人たちのパワーってすごいですね。郡南マルシェの発端は何だったんですか?

興膳:郡上市民協働センターで「MINAMI若者サミット」をやっていて、美並地域には若者の団体みたいなものがあまりないので、それをつくって美並地域のことをこれからやっていこうみたいな話になった時に、三島校長と末松先生に来ていただいたんですね。その時に、飲食店やってる方とかパン屋さんをやってる方たちが、お寺でマルシェみたいなことをやってみたいんだよねみたいな。そういうことから活動を始めようかみたいな話になって、郡南中学校でそういうマルシェとかもできるかなみたいな感じで

三島:今ではどこの中学校も、2年生になると職場体験をするんですね。職場体験で3日間、企業などに行くのはすごく大切なことなんですが、もう少し長いスパンで企業さんと関わっていくと、子どもたちが学ぶことも多いんじゃないかと。職場体験の代わりに企業と何か一緒にできたらいいよねって投げていたところ、郡南マルシェの話になって、商品開発までやってもらえるの?みたいな。

田中:末松さん、どうでした?

末松:郡南マルシェが一番しんどかったですね。

三島:夜の会議が多くて。

末松:お店の方も、営業が終わってからしか打ち合わせができないので、夜、リモートで会議をしていましたね。

田中:末松さんは郡南マルシェを現場でやられていて、どんなことをお感じになられましたか?

末松:郡南マルシェで販売するメニューを考える時から、子どもたちがとても楽しそうにやっていましたよ。当日も、大きな声を出しながら呼び込みしていたりとか、授業ではおとなしい生徒がすごくはしゃいでいたりとか、子どもたちのいつもとは違う姿を見ることができました。郡南マルシェのあとにアンケートを取りましたが、来年の予定があるわけではないのに、来年はこうしたいっていって想いを持っている生徒がしましたし、働いている大人がかっこいいと思ったなんて感想を書いている生徒もしました。

三島:すごいですね。

末松:そうやって商品を開発していくんだということがよくわかったとか、子どもたちがこんなことを感じているんだと驚きました。ああ、これはやる価値があるなって本当に思っています。

田中:メニューのネーミングもこどもたちが考えたんですよね。この短期間に、よくそこまでできましたね。

末松:本当にそうですね。

田中:売れ行きはどうでしたか?

末松:あっという間に売り切れました。

興膳:午前中も持たなかった。

三島:ものの30分で完売です。

末松:本当に、お昼ごろには食べ物がなかったですね。

三島:普段、学校に来られない生徒が郡南マルシェにやってきて、もう本当にいきいきとやってくれて。その生徒は、それから学校にも来るようになって、そういうきっかけになることもあるんだと

田中:こういうことをやっていくうえで、現場の先生方があまりしんどいようでは持続可能といえないと思いますが、そのあたりは改善の余地はあるんでしょうか?

末松:郡南中学校の行事というのではなく、地域ぐるみでご協力いただけるようにしていけないかと、地域のみなさんと相談しているところです


これを10年続けていけば、今の子どもたちが主役になる。

田中:興膳さんはどのようにお考えですか?

興膳:今すごくいいタイミングで、「みなみ風」という美並地域の若者団体が立ち上がったので、郡南中学校との共同プロジェクトみたいな感じではと思っていて。みなみ風も新しい団体なんで、これからどんどん成熟していくんでしょうが、学校の先生を辞めてメンバーになった人もいるくらいで、とても期待しています。

田中:私もまちづくりの端くれでやらせていただいていてすごく感じるのは、その根っこにはこのまちをこうしていきたんだというビジョンというか強い想いを持っていないと続かないんですよね

興膳:いやもう、熱い大人が多すぎて。

田中:そして、その人がいなくなっても続けていけるようにするには、平たくいえばシステム化なんでしょうが、それがこれからの課題だと思っています

三島:この取り組みを10年続ければ、今、15歳の子どもたちが25歳になるので。そうなったら、その子どもたちが戻ってきて、今度は、こちらの立場でやってくれるようになるから、10年がんばろうねっていっているんですね

興膳:そうですね。

三島:子どもたちが変われば、地域の未来が変わるって

田中:私は首都圏の大学生に講義をすることがあるんですが、地方から東京に出てきた学生がごろごろいるんですね。そうした学生が、このまま東京にいようと思ったんですが、自分が生まれ育ったまちに帰ろうかなっていう気になりましたっていうんですよ。私の話を聞いてどう感じたかは別にして、自分が学んできたことを地域に戻って生かしたいと。こうしたことが地方創生につながっていくんだろうなと思うと、私も奮い立ってくるんですね。三島校長や末松先生、興膳さんが郡上でやられていることも、岐阜にもっと広めていくべきだと感じています

三島:ありがとうございます。

田中:興膳さんともご縁をいただけて、やっぱり元気のいい地域っていうのは、こういう方がいらっしゃるんだなと痛感しています。何より子どもたちがいきいきとしてる姿を見て、これはすごいなあと思って。本当にうらやましいですね。私もこんな教育を受けてみたかった。

興膳:本当に、子どもたちがいきいきとしていますんね。

田中:いやあ、郡上のパワーもすごいですね。私たちにできることがありましたら、このプロジェクトを喜んでサポートさせていただきます。

三島:今年度も、12月に中間報告会を行いますので、よろしくお願いします。昨年は一方的な発表に終わってしまったので、今回は双方向にできないかと考えています。

興膳:いいですね。

田中:楽しみですね。本日は、本当にありがとうございました。

MEMO

郡南中学校のSDGsへの取り組み
郡上市立郡南中学校では、2021年4月から学校教育のなかでSDGsへの取り組みを始めた。総合的な学習の時間を中心として、教科の授業ではSDGsにつながる学習や、朝活動の10分間を利用したSDGs学習など教育活動全体での取り組みを行っている。総合的な学習での時間では、3年間の探究課題を「SDGs×清流長良川 世界農業遺産鮎が生息する清流長良川を私たちの手で持続可能な世界に誇れる清流長良川へ!」としてSDGsについて探究学習を実施。生徒会でも、全校参加のスポーツイベントを誰一人取り残さない大会にするなど、子どもたちの主体性をはぐくみながら持続可能な地域社会の担い手づくりを進めている。2021年9月にはSDGsスクール宣言をし、郡上市のひと・まちづくり推進プロジェクトSDGs源流education実証校や、郡上市教育委員会の研究指定校に指定されている。

2023年3月には、郡南マルシェを開催
2023年3月11日、食を通じて地域を盛り上げようと、郡南中学校の体育館で「郡南マルシェ」が開催された。郡南中学校の2年生と地域の飲食店などが、地域の食材を使ったメニューを共同開発。生徒たちがアイデアを出したメニューを、試食会などを行って完成させた。しゃきしゃきした小松菜の食感が特長の上海やきそば、美並地域の特産の深戸ネギと地域のみそを使った和洋折衷のパイ、郡上高校で栽培されたイチゴやあんこが入ったスイーツなどを、キッチンカーやブースで販売。生徒たちも店頭に立って、大きな声で来場者に呼びかけたため、30分も経たないうちに売り切れとなった。また、当日は、郡南中学校の吹奏楽部の演奏や授業で学んだSDGsの発表動画の上映なども行い、たくさんの来場者でにぎわった。

Re:touch Point!

「郡上のことが大好きだから」、ほかに必要なことってある?

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
郡南中学校でSDGsへの取り組みを始めた三島校長。地域との太いパイプを持つ末松先生が教育現場で支え、里山保全組織「猪鹿庁」の興膳長官が相談役となっている。この3人に共通しているのが、「子どもたちにもっと郡上のことを好きになってほしい」。これこそが、SDGsはもちろんまちづくりの原点。
また、子どもたちのためなら協力を惜しまない大人が郡上にはいっぱいいる。それを証明したのが、郡南中学校で開催した「郡南マルシェ」。子どもたちと地域の飲食店が一緒になってメニューを開発し、午前中には売り切れてしまうほどの大盛況となった。まだ決まっていない来年に向けて、子どもたちのワクワクが止まらない。
「子どもたちが変われば、地域の未来が変わる」。三島校長の言葉が胸に刺さった。こうして地域を担う人財が育まれていくんだと痛感した。郡南マルシェをきっかけに、登校できなかった生徒が、中学校に来るようになった。この事実が、郡南中学校で今、起こっていることをよく物語っていると思う。