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Special issue
特別企画

ビジネスで社会の課題を解決する。これがすべての原点。

Special対談
SUNSHOW GROUP
三承工業株式会社
代表取締役
西岡 徹人
Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康

PROFILE

西岡 徹人(にしおか てつひと)

1979年生まれ。三承工業株式会社 代表取締役。事業内容、総合建設業。
国連サミットで採択された国際目標SDGs(持続可能な開発目標)を企業の経営戦略の中核に置き、外務省SDGs 貢献コミット企業として認定され、建設業で初の「ジャパンSDGs アワード」を受賞。
「全ての人にマイホームを!」と、ローコストの注文住宅【SUNSHOW 夢ハウス】を発表。 金銭的な都合などでマイホームを持つ夢を諦めてしまった方、一人親家庭の方、外国籍の方に高品質低価格(700万円台〜)の注文住宅を提供する人気のハウスメーカー。
子連れで勤務可能なカンガルー出勤、キッズスペース等、女性のライフキャリアステージにあった環境作りに力をいれ、岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進企業として認定される。
女性だけの工務店【credo home】代表取締役も務める。

県内の中小企業でいち早くSDGsを取り入れ、2018年には大手企業が名を連ねる「第2回ジャパンSDGsアワード」のSDGsパートナーシップ賞(特別賞)を受賞したSUNSHOW GROUP。まだSDGsが広く知られていない頃から、どのようにその考えを経営に取り入れてきたのか。先駆者であるがゆえの苦労から、現在の成功に至るまでのプロセス、そして新たに着手している取り組みにある思いを代表取締役の西岡徹人氏に聞く中で、一貫して抱き続ける強い信念が見えてきた。

インディケーター(指標)の活用で、
目指すべき取り組みの具現化を

田中:SDGsは“Transforming our world”と発している通り、ビジネス戦略として社員に考えを浸透させ、自社変革を起こしていくことが重要です。西岡社長は、SDGに取り組むことを掲げてから、どのようにSDGsを通じた社内変革をそして、浸透をさせていったのでしょうか?

西岡:最初は、ここ「SUNSHOW.BASE」をつくろうと考えた際に、これからは当社でSDGsに取り組むということと、とはいえ、すでに当社はSDGsに取り組んでいたんだということを、社員に伝えていったんです。それまで社内では、SDGsは私だけが取り組む属人的なビジネスモデルのようになっていて、他の誰も継承できない状態だったんですね。そこで、「私がいなくなっても続けていけるものにしていかなければいけない。それが持続可能なビジネスモデルなんだ」と話したら、少しずつみんなが理解し始めてくれるようになりました。

田中:具体的に社内浸透ではどんなことをされましたか?

西岡:SDGsの朝礼やカードゲームなどさまざまなことをしたんですが、結果、SDGsとはどんなものかは理解できても、結局自分たちは何をすればいいのかという壁に当たりました。そこで、SDGsで世界が目指そうとしている17のゴール、169のターゲットの他に、232のインディケーターがあるという「グローバルインディケーター」の話をしたんです。 今、企業の中でも行っている事業に17のゴールの番号をつけるに留まっていることが多いんですが、実際は17のゴール、169のターゲットの達成に向けた取り組みや進捗状況を計測するための尺度として、国連統計委員会が提案する232のインディケーター(指標)があるんですが、世界基準の取り組みに対してのものなので、実際は私たちの身近ではないことがあります。
そこで、この中から日本が行うべき「ナショナルインディケーター」、地方が行う「ローカルインディケーター」、各企業が行う「ビジネスインディケーター」、さらには個人が行う「パーソナルインディケーター」を考え、それを社員に落とし込んでいきました。それらは1本の串に刺したようにつながっていて、個人や企業が取り組むことがこれだけ世の中に影響を与えているという道筋を示したんです。すると、社員が「そういうことだったんだ!」って理解し始めて、具体的な一歩に踏み出すことができたんですよ。

田中:今ある取り組みにSDGsゴールを当てはめるのではなく、インディケーターを取り入れ具現化させていくことは、とても大切な視点です。これが多くの企業に実はやれていない。西岡社長は「ビジネスインディケーター」の作成を広めるとともに、さらに現在、ナショナルインディケーターの策定も手がけていらっしゃいますね。

西岡:この考え方は、私が日本青年会議所で役員をしていた時に考えたものですが、日本にはナショナルインディケーターがなかったので、現在全国の企業と連携して策定を進めています。

田中:今は「ローカルSDGs」という言葉も生まれていますが、岐阜ならではのSDGsというのも、やはりその地域のインディケーターが必要ですね

西岡:その通りです。地域から元気になって日本全体を良くするためには、社会課題をビジネスで解決することが必要。それには、中小企業がもっと社会課題解決にコミットしない限り、取り組みは進みません。今、SDGsに早くから取り組み始めた先駆者として、誰もがインディケーターを活用できるフォーマットのようなカタチをつくり、積極活用をしていただければと考えています。

田中:より強い共感を覚えます。企業はもちろん教育の場でも、地域の課題についてその地で働く企業が取り組んだことや感じたこと話すことこそがリアリティであり、学生にもより切実な形でかつ共感という形で伝わりやすいと感じています。

西岡:そうですね。その時、成功事例もいいけれど失敗事例ってとても重要だと思うんです。私も学生の時は社会の課題解決なんてまったく思っていなかったけど、やはり社会に出てから段階を経て、ビジネスでも課題解決をしなければいけないと感じたわけですし、広く多くの人が地域課題を知るべきなんじゃないかと思います。


社会課題×主体性でつくる共感型ビジネスモデル

田中:西岡社長は、社会的課題解決を真に自分事として感じたのは、どのようなきっかけがあったのでしょうか。

西岡:私は20歳で創業して、当時はまず周りのためよりも自分がお金を儲けないと社員に給料が出せないと、焦りながら企業経営をしていました。その最中に28歳で岐阜青年会議所に入会し、4年目に青少年育成の委員長を務めさせていただいた時に、初めて社会課題やその解決に必要な地域との連携、次世代教育の必要性などを勉強したんですよ。そうしたら、これってとても大切なことじゃないかと気がついて。

田中:その委員会では、わんぱく相撲大会を担当されていたのですよね。

西岡:はい、実は私、小学校4年生の時に小学生の相撲大会で準優勝したことがあるんですよ。その時は、その記憶が自分の自信になっていたことを思い出しました。そんな折、委員長として当時の岐阜市長と話す機会があり、全国の小学生対象アンケートの「未来に希望がもてない」という項目で、岐阜市の小学生がワーストワンになったと聞いて、人に自信を与える教育の必要性とともに、これを何とかビジネスにも展開できないかと思い始めました。 そこで、まず自己肯定感・自己効力感が少ない親御さんに対して、住宅提供を通じて自信をもってもらい、その課題を解決しようと考えたんです。それが、誰もがマイホームを手に入れられるよう、低価格で高品質の住宅を提供する「夢ハウス」の始まりですね。

田中:しかしSDGsと同様、この時も社内でこの取り組みの必要性を説いていくのは、簡単なことではなかったと推察します。

西岡:おっしゃる通りです。例えば当時、経営理念を唱和しろと言っても、社員の半数は言えないような状態でした。やはりSDGsと一緒で、最初は「自分には関係ない」という思いが非常に強かった。ここはやはり砂漠に水を撒くかのごとく「コツコツがコツ」と思って社員に訴え続けましたね。

田中:社員の方々の変化はどのように起きていきましたか?また、そのきっかけは?

西岡:その時には「一人称、二人称、三人称」という言葉を使って、「自分さえ良ければいいをなくそう」と話しましたね。まず家族や社員全員など、周りの人も含めた二人称で考え、次に世のため人のためという三人称で考える。自分のためにやったことは自分の分しか返ってこないが、公共のために幸せや喜びという刺激を与えると、すごい反応が返ってくると伝えました。社会がよくなれば、売上も利益も上がり、世の中に必要とされる企業になれると、しつこく言い続けた結果、徐々に社員も変わり始めましたね。

田中:その結果、今ではさまざまな社会課題を解決する事業化が進んでいますね。本当に素晴らしいことです。事業化していく際に重要視していることは何でしょうか?

西岡:そうですね。やはり根本にあるのは、社会課題を解決することが重要だということです。もう1つは、私が自分でやり過ぎないことですね。当社では、これまで女性活躍を推進する「チーム夢子」やSDGsのチームのほか、住宅事業でも「夢ハウス」やコロナ禍のニーズに応えた「Nest」、防災を取り入れた「リビキャン」など、それぞれの取り組みに責任者を設けてきました。失敗してもいいから、社員が主体性を持ってやってもらうことが大切だと思っています。

田中:女性社員の比率が極端に低い建設業の中で、女性がトップで事業を行っている点も特筆すべきところです。

西岡:「チーム夢子」をつくったことで、日本では12~13%といわれている女性の管理職比率は53%まで上がりました。今では外国籍の方も、従業員の10%ほどを占めています。もともと当社は超ブラック企業で、2011年の離職率は53%だったんですよ。それが、みんな主体的に働くようになり、今は6%に留まっています。この変化は大きいですね。

田中:夢ハウスの話に戻りますが、この取り組みを始めた時、低価格・高品質を実現するために、資材を共同購入したり利益をしっかり割り振るなど、さまざまな企業と「連携」した点が印象的でした。夢ハウス実現に至るまでのお話についても触れていただけますか?

西岡:それまで当社は土木業が主体で建築業の方にはあまり力を入れてなかったんですが、低価格の住宅に本腰を入れて取り組もうと思った時、「安かろう悪かろう」と言われるのが本当に嫌だったんですね。そこで、一番のカギを握る木材屋の方々に、必ず年間を通して仕事を渡せるように努力するから、今かかっている費用や時間、人材をもっと削減させるモデルを一緒に考えてほしいと頼んだんです。そうしたら、ある会社の社長さんが「これは社会課題を解決するビジネスモデルだから、絶対に進めるべきだ」と賛同してくれて。自社が中心となってパートナーと連携し、価値を創造するという共感型のビジネスモデルができて、現在に至ります。

田中:社内外で共感を得るには、かなり努力や苦労があったと思います。そこをコツコツ積み重ねてきたところに、御社が育んできた強さが感じられますね。

女性在籍率
53%(一般的な中小企業 12-13%)
離職率
SUNSHOW GROUP(現在) 6%前後(2011年 53%)

地域課題には、持続可能なビジネスが不可欠

田中:社会には大小さまざまな課題があると思います。近年、西岡社長はSDGsを推進していく上で、どんなところに岐阜のローカル課題を感じていらっしゃいますか?

西岡:岐阜には優良なものづくり企業が数多くある中で、今最も気になっているのは「事業承継」です。私自身が早いうちに事業承継をしたいと思っていたことや、私の周りに2代目・3代目の経営者仲間が多くいることが、関心の背景にありますが、話を聞いていると、事業承継には大きく2つの問題があることに気づきます。1つはやはりお金の問題。先代に借金がある場合、やはり継ぐ人を見つけられず、日本の中小企業はすでに2社に1社が事業を継承できない状態だといわれています。さらにもう1つが、先代が属人的な事業経営をしてきたために、若い承継者が社員を引き継げないという問題です。まず金銭的な問題については、2019年に経営者保証を解除する事業承継支援ができて、クリアできる環境が整いました。しかし後者については、やはり持続可能なビジネスモデル、社会課題を解決できるようなビジネスモデルにつくり替えて、継続できる企業をつくらなくてはいけません。この点は、SDGsの考え方で解決ができるのではないかと思い、地元金融機関と動きを始めているところです。

田中:これもSDGsのビジネスモデル、つまり先ほどお話したインディケーター先にあるものの1つだと感じます。特にファイナンスの視点では、今、地域における金融の在り方が問われていて、サステナブルファイナンスという言葉もあります。特に地方では、金融機関による課題解決法と融資を組み合わせたモデルをつくることも、1つの大きな課題ですね。

西岡:今、私たちは「SUSTAINABLE DEVELOPMENT MANAGEMENT」という会社を立ち上げて、大学教授や金融機関、企業が話し合いながらインディケーターをつくる検討委員会を設立しているんです。特に金融機関においては、これまでSDGsの評価基準がなく、各企業が社会課題をビジネスで解決しているかという点をインディケーターで明確にする指標をつくろうという動きを始めています。SDGsの重要性を理解しているけれど、どのように取り組んでいけばいいか分からないという金融機関もまだまだ多いので、そういうところに私たちが意見を出し合って理解を深めることができればと、検討委員会に期待を寄せているところです。

田中:それは中小企業の経営者にとって、とてもありがたいことだと思います。事業継承の中には、本当に困っている地域課題が詰まっていると思いますので、そこを解決する策がSDGsを通じて出てくることには、大きな期待がもてますね。この他に、何か抱いている野望はありますか?

西岡:野望というものはないんですが(笑)、やはり一番思うところは、社会課題解決ができる人材と企業をつくりたいということですね。そのために、私自身は全国で講演をして理解を広げ、当社のスタッフもそうした人材として育てて、事業部のトップとして活躍してほしいと思っています。もう1つは、建設業における一人親方や地域の工務店に、私たちが今行っているようなビジネスモデルを提供し、例えば地域の避難所になるような場所をつくってもらうなど、社会課題解決につながる持続可能なビジネスや困難からの再興を目指してもらうことも考えています。こうした取り組みのためにも、この「Re:touch」のように、社会課題解決に取り組む人や企業を発信していくことは、とても重要だと思います。


パートナー連携によって、
より幅広い課題解決を目指す

田中:「Re:touch」を始めた目的は、まず難解と思われているSDGsの敷居を下げることです。多くの人がSDGsに取り組むことで、気づきや社会的課題が見つかり、共感・連携の中に新たなアイディアも生まれます。これこそに多くの人が気づいていただきたい。

西岡:そうですね。この「SUNSHOW.BASE」も、多くの人にSDGsへの理解を深めてもらいたいと考えて開設し、昨年も何百人もの中小企業の方たちに来ていただきました。例えば、当社では農業の担い手不足を課題として捉えた「クレドファーム レンゲの里」をつくり、障がいのある方に働いてもらって無添加無農薬の農作物を育てています。こうした本業以外の分野でも、パートナーと連携すれば社会課題を解決でき、より豊かな社会になると思っています。

田中:「連携」とそして、「協働」は大変重要なキーワードですね。住宅事業の中で「Nest」もパートナー連携による社会課題解決を目指したものだと伺いました。

西岡:レジリエンス、国土強靭化を社会課題としたNestでは、NPO法人や岐阜の建設業者、建具屋や型枠を扱う工務店、デザインを手がける企業など、幅広い企業や団体とパートナー連携。その中で、地震や避難生活、感染症対策などを考えたレジリエンスに強い住宅を建てています。

田中:ニュースタイル、ニュースタンダード、ニューステータスということですね。それから「SDGsプラットフォーム」という団体も立ち上げていらっしゃいますが、こちらはどのような活動をされていますか?

西岡:SDGsプラットフォームでは、現在SDGsとユネスコを連携させる「ユネスコ共創ネットワーク」を全国で展開しています。これは、文部科学省からの委託を受けた事業で、次世代にユネスコを残すために活動のさらなる充実を目指して、ステークホルダーのプラットフォームづくりに取り組んでいます。ぜひ田中さんにも入っていただきたいですね。

田中:西岡社長からのご依頼であれば喜んで。私は、岐阜県からさまざまな活動を発信したいという強いパッションを持っていますが、同じ思いを持つ方々と1つの方向へ向かっていくのは、より大きなパワーになると思います。岐阜県がSDGs未来都市に選定された今、岐阜という地方として何を目指すのかを発信することが、新しいまちづくりや、新たなまちの在り方につながってくると思います。

西岡:社会課題を解決するのに、企業はビジネスで、医療従事者は医療で、金融機関は金融でと、それぞれ当てられたものがあると思うんです。これを連携させるのがSDGsであり、パートナーシップを結びながら新たな価値を生み出すのもSDGsであると思います。いろんな切り口で、いろんな人たちが、仲よく楽しく社会の課題解決に取り組めるといいかなと。多くの人が一歩を前に踏み出せば、世界は変わると思うので、ぜひ何か変わるきっかけを「Re:touch」でつくっていってもらえたら非常にうれしいですね。

Re:touch Point!

SUNSHOW GROUPは、岐阜の誇り!
愚直に、一徹に、ビジネスで社会を変える。SDGsパイオニアの信念を見た。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
この対談で幾度も西岡社長から発せられた「社会課題解決」という言葉。西岡社長がSDGsを起点に次々と展開していく事業には、すべてにこの強い思いと一貫性が込められている。それを愚直に貫くということは、まさに「言うは易し行うは難し」であることを、今回の対談で改めて痛感した。何より西岡社長は、そこに丁寧に向き合い、多くの関係者、企業・団体などステークホルダーとの対話を行い、そして共感を得ながら実に多様なビジネスモデルをカタチにされてきた。実際に三承工業をベンチマークとして、SDGsに踏み出す企業が増えていることも事実であり、今後も西岡社長の取り組みは、多くの人々の共感を得て、そして多くの人々を巻き込みながら、持続可能な社会とまちづくりの大きな流れを切り拓いていくであろう。我々も負けてはいられない。