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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 49
カヤックに30分乗っただけで、
子どもたちの成長が見られる。
伊藤 来さん(岐阜県中津川市)
カヤック大学代表 兼 大自然の水先案内人
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 06 安全な水とトイレを世界中に
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
恵那高校や早稲田大学での学生時代はボート競技に熱中し、オリンピックの強化選手になったこともある伊藤来(いとうきたる)さん。けがでボート競技を休んでいたときに、これまでの経験を生かして、地元に恩返しできないか考えた。トラックメーカーに就職して海外でも見聞を広めると、その思いはますます強くなり、10年ほど前に中津川市に戻りカヤック体験を始めた。
最初は、多くの方に反対された「危険だからダメだ」。その中でも、さまざまな方にアドバイスをいただき、中津川市にある椛の湖オートキャンプ場では、初年度から多くのお客さんが伊藤さんのカヤックに乗ってくれた。湖や川のなかから眺める景色がすばらしいことは容易に想像できるが、同時に知りたくなかった現実まで見えてくる。それは、不法投棄されたごみ。カヤックで中津川市の、そして、岐阜県の美しい自然を楽しんでもらって、帰りにはそうしたごみを拾って戻ってくる。伊藤さんは、そんな持続可能な水辺の自然体験をめざしている。
今回は、苗木城の真下にある築120年の古民家を購入して、新たな自然体験の拠点にしようと進めている、カヤック大学の伊藤来代表にお話を聞いた。

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ボート競技をやっていて、
オリンピックの強化選手に。

田中:今回は、中津川市の椛の湖オートキャンプ場で、カヤック体験や自然ガイドなどをされている、伊藤来さんにお話をお聞きします。

伊藤:よろしくお願いします。

田中:実は、昨年、私のFacebookにメッセージをいただきまして。

伊藤:岐阜県でSDGsをやられているということで、おもしろそうだなと声をかけさせていただきました。

田中:もともとは中津川市のご出身なんですか?

伊藤:そうですね。中津川市出身で、高校、大学と、競技でボートをやっていました。競技は学生時代でやめてしまったんですが、そのあと首都圏で働いていて、水辺の活性化であったりとか、ボートを使って何かできないかなって思って、こちらに帰ってきて「カヤック大学」を始めました

田中:オリンピックや世界選手権の強化選手だったんですもんね。

伊藤:シングルスカルとか、エイトという8人乗りのがっつり漕ぐ競技もやっていました。

田中:へえー、すごい。で、国体も出られて。伊藤さんは、ボートはいつごろから始められたんですか?

伊藤:高校の部活動からですね。恵那高校というところに進学して、恵那高校がボート競技の古豪で、オリンピック選手なんかも輩出してたんですね。で、高校時代から競技でやっていて、国体とかで岐阜県代表として出場して準優勝したりして、そのあと早稲田大学に進学して、ボート部に所属しながらやっていました。

田中:早稲田大学でも4年間競技をされていて。

伊藤:ケガで休部していたんですが、そのあともボートに関わっていて、東京都江戸川区のボランティア活動で初めてカヤックに出会いました。そこでは、カヤックで清掃活動をやっていたんですね。そういうことから、ボートも乗るだけじゃなくて、いろんなことができるんだっていうことを学びました。今は、カヤックを活かした観光事業を中心にやっていますが、コロナ禍の前であれば、ごみ拾いをやったり、バーベキュー場と連携して街コンをやったりしていました。

田中:江戸川区のボランティア活動に参加されていたというのは、やっぱりそういうことに興味があったわけですね。

伊藤:大学を卒業して、トラックメーカーに就職したんですが、そこの先輩がカヌーをやられていて、よかったら一緒にどうかと声をかけてくれました。

田中:そこでカヤックと出会ったということですが、そもそも地元に戻ってカヤック大学をやりたいと思われたのはどうしてですか?

伊藤:私は、高校時代から木曽川の恵那峡っていうところでボートを漕いでいましたが、高校生のころはそこで漕ぐことが当たり前のようになっていて。すごく風光明媚なところで漕いでいたんですが、じゃあ、カヤックを生かして観光事業をやりたいって思っても、それこそふらっと誰かが観光で来てカヤックに乗るっていう状況ではなかったんですね

田中:恵那峡といえば、自然に恵まれた美しい渓谷ですもんね。

伊藤:それがやっぱりとても残念で。しかも、私がこちらに戻ってきた10年ぐらい前は、地元の子どもたちにボートとかカヌーとかやったことある?って聞くと、地元の学校でもクラスで1人か2人手を挙げるくらいでした。こんなすばらしい自然環境を生かせていないってすごく感じて、自分はここで国体選手として、岐阜県の代表としても競技に出させてもらったので、何か恩返しできればいいなと思って始めました

田中:母校である恵那高校のボート部は、今はどうなんですか?

伊藤:恵那高校は進学校なので、部員を確保するのが難しいようですが、私の2歳下の後輩がボート部の顧問になって盛り上げてくれています。


ボート競技の経験を生かして、
地元に恩返ししたいと。

田中:大学卒業後、トラックメーカーに就職されてはいますが、いつか地元に戻ってという気持ちがあったんですよね。

伊藤:ボートをそれこそガンガン漕ぐ学生スポーツをやってきたんですが、けがをして自分ができることって何だろうって就職も含めて考えました。とりあえず、いろんな会社を受けてみようって就職活動をしたんですが、そのなかでトラックメーカーに入社できて、中国であったりとか海外での営業もやらせてもらいました。そういうことを経験するうちに、やっぱり岐阜県の自然であったりとか、木曽川の魅力っていうものをあらためて感じて、地元に帰って何かしらやりたい、恩返ししたいと思うようになりましたね

田中:海外でも仕事をされていて、岐阜県や木曽川の魅力に気づかれたと。

伊藤:しかも、風光明媚なところであったりとか、そういったところを、それこそ知っている人しか知らないみたいな状況がとても残念だったので、何か私の経験を生かして貢献したいっていう思いが強くなりました。また、ボートを漕いでいる人間であればわかるんですが、一見きれいな河川でも近づいてみると、不法投棄のごみであったりとか、そういったものが見えないところに集まってきちゃっているんですよね。そういうものも何とかしたいなっていう思いになって、カヤックで実際に漕ぎながらごみを拾うとか、ゲーム感覚で楽しくできればいいと思うんですが、どんなごみが拾えた、こんなものがあったよ、みたいなことを、カヤックを通じて体験してもらえればと思います

田中:でも、38歳という若さで、すぐにこうやって地元に戻ってくるって、本当にすごいですね。

伊藤:東濃地域も若者は減ってきてはいるんですが、リニア中央新幹線の岐阜県駅ができるということで、これからこの地域も活性化するのかなっていう段階に来ているので、みんなで協力しながら何かやっていければと考えています

田中:伊藤さんはUターンになりますが、地方創生っていうか、地域の活性化にいろいろな思いを持って戻ってこられたんですね。自分が経験したことで、地域に恩返しをしたいという若い人たちが、今、本当に増えてきていますが、私たちの時代ってあんまりなかったですね。本当にすばらしいことだと感じています。

伊藤:ありがとうございます。ただ、私もやっぱり競技でやってるときは、そんな余裕はなかったですね。けがをしたときに、それでちょっと立ち止まったときに、いろいろと考えるようになりました。東日本大震災も、大きなきっかけになりましたね。あのとき、帰宅難民になりました。

田中:そうなんですね。

伊藤:まだ、トラックメーカーに勤めていたんですが、明日さえ生きていられるかどうかわからないんだってことを感じるようになって。

田中:東日本大震災がターニングポイントになったんですね。

伊藤:そうですね。


椛の湖オートキャンプ場で、
初年度に2,000人が体験。

田中:子どものときから、高校でボートを漕ぎながら、当たり前だと思っていたことが、首都圏で生活されて、とてもすてきなことだと気づかれて。ただ、こうして戻ってこられて、いろいろと苦労されたとは思いますが。

伊藤:はい。こちら帰ってきて、恵那峡がホームグラウンドであったので、すぐにできるだろうと甘い考えでいました。そんなときに応援してくれる人が現れて、自然散策や木工体験などを一緒にやっている栗谷本征二さんっていう方ですが、今では師匠と仰いでいます

田中:NHKの教養番組で講師を務められていた方ですね。

伊藤:そうです。椛の湖オートキャンプ場は、栗谷本さんに紹介してもらいました。以前は、椛の湖でも手漕ぎボートをやっていたみたいですが、ボートの老朽化や人手不足などでやめてしまっていたんですね。それで、カヤック体験をやらせてもらったら、初年度に2,000人 今までに累計18,000人ぐらいの方に乗ってもらえました

田中:その師匠との出会いは何年前なんですか?

伊藤: 10年ぐらい前ですね。本当に帰ってきて1年ぐらいは、試乗会まではやらせてもらえるんですが、そこから先がなかなか進まなくて。栗谷本さんはどちらかというと自然ガイドをやられている方で、中津川市にある富士見台高原のササユリの保存であったりとか、そういった活動のなかでいろいろな方を紹介してもらいました。

田中:私も Re:touchでいろんな方の話を聞いていると、やっぱり人と人との出会いが自分の道を切り開いてくれるというか、そういうところにつながっていくんですね。でも、根っこには自分の思いっていうのを強く持っていないと、そこで出会いがあってもなかなか実現できないんですよ。伊藤さんの思いが大きく強かったからこそ、師として仰ぐ栗谷本さんとの出会いにつながったのかなって思います。

伊藤:そうですね。やっぱり、人の出会いにはすごく恵まれていたのかなって思います。今でもいろんな方に支えてもらっていて、こういう形で継続できています。今、10年目で、それこそコロナ禍で、ちょっと休止した時期はあったんですが、それでも2万人弱ぐらいの方にカヤックにお乗りいただいています。また、水辺のイベントをやらないかっていうお声がけをしてもらっていて、さっきいった街コンイベントなんかもそうですし、ほかの場所でもここに池があるんだけど活性化できないかとかもありますし、コロナ禍の前には、下呂市から依頼されてカヤックの体験教室なんかもやったりしました。

田中:でも、初年度に2,000人ですか?

伊藤:はい。

田中:すごいですね。

伊藤:もともと、カヤックを体験したいというお客さんがたくさんいたんだと思います。ただ、中津川市にふらっと来て、気軽にカヤックに乗れるところがなくて。手ぶらで、濡れてもいい格好をしていればできるよ、みたいな。それと、SNSでいろんなことを発信していったのも大きかったと思います。

田中:お客さんはいろんなところから来られているんですか?

伊藤:豊田市とか名古屋市の方が8割で、アウトドアが好きなお客さんが多かったですね。

田中: それにしても、すごい人数ですね。

伊藤:親子連れのお客さんが多いんですよ。10年前ってまだスタンドアップパドルボードとかもあまりなかったので、こういう水辺のレジャーっていうときに、カヌーやカヤックに旅行番組では芸能人なんかは乗ったりしますが、じゃあ、どうやってやるの?どこでやるの?とか、例えば、自分で買ったとしても、この川で乗っていいの?海で乗っていいの?って、まだまだよくわからなかったんですね。

田中:でも、今でもそうじゃないですか? 岐阜県でも、ここまでちゃんとやってらっしゃるところってありますか?

伊藤:長良川には、結構できる場所があるんですよ。ただ、木曽川は途中にダムがあるので、はじめた当時は、なかなか乗れるところが少なくて。


やっぱり安全性が高いこと、
事故がないことが最優先。

田中:でも、スタートしていきなり初年度が2,000人って、みんな驚いたんじゃないですかね。

伊藤:そうですね。簡単な手漕ぎボートのイベントとかはあったんですが、あまり集客ができていなかったみたいで。私がやって累計18,000人集まったということで、みんなにそういう時代になっていることを知ってもらえてよかったです。

田中:これは、なかなか大変だったと。

伊藤:そうですね。1日に100人とかもあって、夏休みとかだと本当にもう必死で、朝から晩までカヤックを出していました

田中:安全面もやっぱりケアしなきゃいけないので、本当に気の休まることがないですもんね。

伊藤:このカヤックを買うときも、15メーカーぐらいの30艇を乗り比べたりしました。やっぱり安全性の高いもの、事故がないことが最優先なので。実はシットインと言われるカヤックっていわれるものもあるんですが、ちょっとバランス感覚や安全性が乏しく、初めて乗る方、特に親子に乗ってほしくて、安定感の高い二人乗りのシットオンっていう上に乗っかるタイプの、しかも、海でも乗れるシーカヤックっていうのを使っています。安全性っていうのはすごく気にしていて、もちろん救命胴衣も着てもらいますし、保険にも加入してもらうようにしています。

田中:コロナ禍は大変だったと思いますが。

伊藤:2年間は大変でしたね。

田中:今年は、徐々に戻ってきているんですか?

伊藤:そうですね。戻りつつはあるのかなとは思っていますが、まだコロナ禍の前にはなっていないですね。ただ、アウトドアの選択肢がいろいろと増えてきたので、好きなお客さんには何回もリピートで来てもらえます。先週であれば、土曜日に2回乗られて、日曜日にもう1回乗るお母さんがいたりとか。

田中:たくさんの家族連れが、カヤックで楽しまれているのを見ていて、何か感じられていることはありますか?

伊藤:この椛の湖も、高校までここで生まれ育ってきたにもかかわらず、あまりよく知りませんでした。こういった価値ある、魅力あるところをたくさん見つけていって、磨き上げて、みんなに知ってもらい体験してもらいたいです。こんなに気持ちいいから、こんなに楽しいからって、子どもたちが守ろうよっていって、ごみを拾ってくれるようになるとうれしいですね。自然を守りながら観光につなげていけるように、いろいろな人と協力しながら取り組んでいきたいと考えています

田中:環境保全しながら、観光資源として持続可能にしようというのは、まさにSDGsですね。北欧なんかでは、こうした自然のなかで遊びながら学ぶことが注目されていると聞きます

伊藤:そうですね。たくさんの人が自然体験を楽しむようになっていますね。

田中:伊藤さんのようなオリンピック強化選手になった方が、こうしたカヤック体験をされているのって、とても安心感があっていいと思いますね。

伊藤:私のようなボートの経験者が競技を引退してから、そういった経験を生かした仕事をしているかというと、なかなか雇用につながっていないんですね。せっかく知識や技術があるのに、私もトラックメーカーに勤めていたんですが、そういう一般企業に勤めて30代や40代を過ごす方がとても多くて。アスリートの再雇用っていう部分でも、やっぱり日本では課題があるのかなって思っています

田中:よくプロ野球の選手なんかが話題になりますが、アスリートのセカンドキャリアっていう社会課題ですね。伊藤さんが自分の生まれ育った岐阜県でカヤック体験を始められたということに、私はとても共感しますし、本当に岐阜県に広げていってほしいと思います

伊藤:ありがとうございます。

お母さんが、子どもの成長を感じて
涙されることも。

田中:先ほど、親子連れが多いと聞きましたが、子どもだとカヤックに乗るのが怖いっていうこともあったりしませんか?

伊藤:ありますね。子どもたちをカヤックに乗せたいといわれるのは、実はお母さんが多いんですね。でも、カヤックに初めて乗る子どもは、揺れて怖い、桟橋に乗っただけでも怖いっていうんですが、実際に乗ってもらって、帰ってくると、楽しかったって、ちょっと時間が足りないよって。そういうときは、とてもうれしいですね。
なかには、お母さんにべったりな子どももいたりするんですが、カヤックで実際にパドルを持って漕いでもらうと、意外にそこまで力は要らず漕いでもらうことができるので、お子さんがそれに自信をつけて、お母さんの分も漕いであげるからみたいな感じで帰ってくるんですが、お母さんがそれに子どもの成長を感じたっていって涙される方とかもいらっしゃいますよ

田中:ああ、それはすばらしい。子どもにとってもいい体験になりますね。

伊藤:成功体験っていうものだと思います。たった30分カヤックに乗っているだけで、子どもたちの成長を見ることができるんだって、私のなかでも大きな発見でしたし、今やっているやりがいにもつながっています

田中:究極の自然体験かなって思います。山や湖でキャンプを楽しむだけじゃなくて、自分の危険を感じながら恐る恐るやっていって、もう戻ってくるときにはたくましくなっているんですね、きっと。

伊藤:そうですね。実際に、自分でやってみるっていうことが大きいですよね。

田中:先ほど、環境保全にも着目されるようになったと話されましたが、河川って目に見えないところでいろいろあるんですね。

伊藤:そうですね、はい。

田中:カヤックを体験しながらごみを拾うゲームみたいなことは、もう始めていらっしゃるんですか?

伊藤:私の使っているカヤックが2人乗りですので、余裕のある、スペースのある、しかも、レジャー用のカヤックですので、そういったごみ拾いなんかをやってもらえるんです。実際、水辺で何が起きているかっていうと、ごみがたまっちゃっていたりしていても危険だから拾いにいけない、ずっとそこに空き缶が浮いていることを地元住民の方が知っていても拾いにいけない。なかには、自転車が捨てられていたりとか、冷蔵庫が捨てられていたりとかするんですが、そういった不法投棄されたものを何とかしたいけどできないっていう歯がゆさを、すごく感じている地域があることを知ったんですね

田中:そんな現実があるんですね。

伊藤:じゃあ、カヤックであれば、2人乗りで近づいていって、片方の人が漕いで、片方の人が拾ってとか。帰ってくるまでに、どっちが先に袋をいっぱいにするかみたいにしたりとか、実際に何個拾えたかなっていうように数えたりしたりとか、そういったことを自然環境のなかでやっていきたいと考えています。カヤックに乗ることが楽しいのはもちろん、水辺がすごく気持ちいいねって思えて、それを守りたいっていう活動につながっていくのかなって感じています
例えば、まちのなかでごみ拾いのイベントをやるよっていっても、残念ながら、小さいお子さんであったりとか、学生の人たちの集まりが悪いって聞いています。ですが、そういうものにカヤックを絡めることで、魅力にもなるし、楽しさも、ゲーム感覚にもできるっていうことを感じていて、これからどんどん増やしていけたらなと考えています

田中:自然をしっかり守っていくんだという意識につなげていくには、まさにカヤックはうってつけですよね

伊藤:そうですね。危ないよ、危険だから近づくなよ、でも、きれいに保てよといわれても、ぴんとこないんですよね。できれば、そこで遊んでいて気持ちいい、楽しいよ、だから、こんなきれいな環境を守りたいよねっていうのが、自然な流れなのかなと私のなかでは思っています

田中:椛の湖には、そんなごみがないですよね。

伊藤:いやいや。キャンプ場ですので、どうしても出てしまうので。だから、私たちは、来たときよりも美しくをモットーにやっています。
人が暮らす以上はどうしてもごみは出てしまうので、そのなかでいかに減らしていくかが、私たちの観光事業に対する関わり方、地域の自然に対する関わり方なのかなって思っています


自分の心の帰る場所が、
ここにはあるのかなって。

田中:すばらしいですね。伊藤さんは、今、築120年の古民家に暮らしているとか。

伊藤:木曽川沿いの古民家なんですが、地域の、同じ区の人ですら、あんなところに家があるなんて知らなかったっていわれるぐらい、ちょっとすごい場所にあります。

田中:岐阜県でも移住・定住されてくる人が多くなっていると聞いていますが、伊藤さんのように首都圏で便利な暮らしを知ってしまっても、こちらに戻ってきてすんなり入っていけるものなんですか?

伊藤:今ではネットショッピングもありますし、ここでも何不自由なく暮らすことはできます。地方の方が、まだ磨き上げていない自分だけの、気持ちのいい場所っていうんですかね、そういった自分の心の帰る場所っていうものがあるのかなって感じています。もちろん、都市部のよさってあるのかもしれませんが、ない楽しさ、ないからこその工夫する喜びって、まさしくキャンプとかアウトドアにつながると思うんですよね。キャンプとかアウトドアとかで過ごすなかでいかにして工夫するかとか、普段感じれない自然の風であったりとか、木の揺らぎであったりとか、何よりも四季の移ろいを感じられるっていうところは、やっぱり帰ってきて一番の魅力なのかなって思っています

田中:すごいですね。ここでは、レッドリストに載っているような生物や植物にも出会えるんですか?

伊藤:そうですね。この地域にも貴重な動植物がいて、それらを守っていこうという活動がされています。栗谷本征二さんもそのなかの1人ですが、残念ながらそういう方が高齢になられてきていて。富士見台高原にもササユリっていうすごく貴重な植物が群生しているんですが、みんなで保護するよっていっても人材不足なところがあって、私は水辺が専門でまだまだ微力ではありますが、そうした保護活動に携わらせてもらっています

田中:岐阜県に限らず、日本全体が人材不足なところがあって、伊藤さんはいろいろな人たちと連携してやられているんですが、もっともっと若い人たちに参画してほしいですよね。

伊藤:そうですね。若い人たちにも来てもらいたいですし、若い人たちにやれることって、どれだけでもあると思うんですよね。それをSDGsじゃないですが、いかに持続可能にしていくか。単純にボランティア活動にしてしまうと、やっぱり続けることがしんどくなってしまうので、若い人たちができる形にしていくっていうのが、私たちの、30代の仕事なのかなって思っています。
今後、少子化になっているなかで、20代の若い人たちに自然保護をやろうだとか、ごみ拾いをやろうっていうときに、じゃあボランティアでやってね、ではちょっと辛いのかなって思いますね。そういうところで、私たちがうまく予算化していかなければ。例えば、カヤックの参加者の方に保険料を払ってもらって、ごみ拾いもしてもらうみたいなこともやっぱり大切なのかなって考えています

田中:SDGsってややもすると、社会貢献的な視点だけにとどまってしまうきらいがあって、それも決して間違いではないと思うんですが、やっぱり持続可能ってお金を循環させなきゃいけないっていうことが、根っこにはありますからね

伊藤:まだまだ、お金の話をすることがタブーみたいなところがあって。

田中:そうですね。でも、海外ではちゃんとその辺りのことをメッセージとして発信しているんですよ。やっぱり今までなかったような経済効果を生んでいくものにしていかないと、単なる社会貢献としてとえられると持続的でなくなってしまいますので
あと、気候変動がずっと叫ばれていて、最近では、気候危機、クライメートクライシスとか、地球沸騰化なんて言い出した人もいるくらいですが、ここもやっぱり影響を受けていらっしゃるんですか?水がどんどん減っているとか?

伊藤:そうですね。今すごく減ってきています。

田中:そうしたことについてはどうお考えになっているんですか?

伊藤:そうですね。難しいところではありますが、私たちの暮らしが壊しちゃっていることは否定できないと思います。ただ、地球環境には自浄作用があるんですよ。こうした自浄作用をうまく生かしながら、個人個人が環境保全をやっていくことが大事なのかなって。私たちがカヤックをやるところでは、お客さんにも気持ちよく乗ってもらいたいし、お客さんも気持ちよく乗りたいからということで、一緒にごみ拾いをして、来たときよりも美しくするようにしています

田中:まさに、そこだよね。

伊藤:いえいえ。まだまだ若造で、そんな偉そうなこといって、お恥ずかしい限りなんですが。

田中:いやいや。こういう自然をしっかり守っていくためには、やっぱりそういう思いを持った人たちがもっともっと増えていかないと、本当の意味での環境保全につながっていかないので

伊藤:私がやっている河川だと、人が入らないところに不法投棄されたりとか、水辺って目立たないところにごみが集まってきちゃうんですよね。カヤックをやっていると、そういうところを見つけられることも大きいのかなって思いますね。


中津川市の観光の起爆剤に
なれたらいいなって。

田中:すばらしい。コロナ禍の前までまだまだとおっしゃっていましたが、今後どうされていきたいとかっていうのはありますか?

伊藤: そうですね。先ほどお話したように木曽川沿いの古民家、築120年の古民家を買いました。実はその古民家が苗木城といって、絶景!山城ベスト10第1位に選ばれた絶景スポットの真下にあるんですね。それで、この古民家をベースにして、苗木城の散策であったりとか、木曽川でのカヤック体験であったりとか、また、東濃地域にリニア中央新幹線ができるタイミングでもありますので、中津川市の観光の起爆剤になれたらいいなって考えています。

田中:すごいところにあるんですね。

伊藤:まったく人が来ないと、荒れ放題になったまま放置されてしまうので、さっきもいったように、人を入れながら、自然も観光も持続可能になればと、個人的には考えています

田中:リニア中央新幹線だと、東京から東濃地域まで40分とか45分らしいですね。

伊藤:首都圏からお客さんを呼べるっていうのはとても大きいですね。中津川市であったり、岐阜県っていう選択肢が増えてくるのかなって期待はしています。

田中:今回は、お声かけいただいて、本当にありがとうございました。伊藤さんのご活動がさらにご発展されることを願っていますし、私たちはこういう出会いを「どえらい出逢い」と呼んでいるんですが、このRe:touchでもいろいろと情報発信のお手伝いをさせていただきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。

TOPIC

  • 06 安全な水とトイレを世界中に
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※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
自然の大切さを学べるのが、
カヤック大学。
10年ほど前、自分が生まれ育った中津川市にUターンして、椛の湖オートキャンプ場を中心にカヤック体験を始めた伊藤来さん。初年度に8,000人がカヤック体験したことで、カヤックを活用した自然体験が見直され、現在では、さまざまな場所でカヤック体験やカヤックアテンドツアーなどを行っている。
コロナ禍で苦しい時期はあったが、2023年1月には「カヤック大学」を立ち上げ、イベントや講演など地域の活性化に奔走。カヤック大学のWEBサイトにある伊藤さんのあいさつには、こう記してある。「私たちは、岐阜の自然を守り育み大切にしていく活動をしています」。すばらしい自然を体験してもらえば、その価値がわかってもらえる。カヤック大学は、カヤックの意識や技術ではなく、自然の大切さを学んでもらうところなのだ。

Company PROFILE

企業名(団体名) カヤック大学
代表者名 代表 伊藤 来
所在地 〒509-9231
岐阜県中津川市上野589-17

Re:touch Point!

自然のなかに漕ぎださないと、見えてこないことがある。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
カヤック大学の代表を務められている伊藤来さんから聞いたことだが、湖や河川への不法投棄は外からはわからないところにたまるそうだ。中津川市や岐阜県の美しい自然に漕ぎだしてみると、そうした目にしたくないものまで見えてくる。こうした現実と真正面から向き合い、持続可能な水辺の自然体験を目指されているところは、SDGsにほかならない。
カヤックに30分乗っただけで、子どもたちの成長するのが見られるのは、新しい発見だったと伊藤さん。そんな子どもを見て、涙されるお母さんもいるとか。みんなで休日に集まって、まちや河川、浜辺のごみを拾うボランティア。それはそれでとても意義のあることではあるが、カヤックで自然の雄大さを体験したあと、みんながカヤックにごみを積んで戻ってくる。地球環境の自浄作用のなかに、人間が組み込まれた瞬間だ。自然の大切さがわかれば、もうそこに不法投棄はなくなる。伊藤さんはそんな未来を思い描いている。