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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 34
子どもたちと、「共」に
学んでいく地域福祉。

大垣市社会福祉協議会(岐阜県大垣市)

事務局長 大橋 奈麻輝さん(写真右)
次長 山田 孝さん(写真左)
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 01 貧困をなくそう
  • 02 飢餓をゼロに
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
住み慣れた地域で安心して暮らせるまちづくりを進めるため、1975年(昭和50年)に設立された大垣市社会福祉協議会。大垣市で初めて訪問介護サービスや訪問看護サービスを始めたほか、地域包括支援センターやボランティア市民活動支援センターを運営するなど、その福祉サービスは多岐にわたっている。こうした地域福祉を支えているのは、大垣市民の共生社会への意識の高さと職員の70%という女性の活躍。
また、保育園から高校生までの福祉教育にも力を入れており、毎年、開催されている「子どもの意見を聞く会」は満席になる。地域福祉で「共」に生きることを伝えていくつもりが、子どもたちから教わることがたくさんあることがわかった。最近では、SDGsへの取り組みを始めており、地域で支え合うコミュニティづくりや子どもと共に学んでいく福祉教育に、新しい風が吹き込んでくれることを期待している。
今回は、大垣市社会福祉協議会の事務局長の大橋奈麻輝さんと次長の山田孝さんにお話を聞いた。

市民のみなさんと共に、
地域福祉を進めている。

田中:大垣市社会福祉協議会(以下、大垣社協)について概要からお話しください。

大橋:1975年(昭和50年)に、社会福祉法人として設立されました。

田中:全国的にもすごく早いですね。

大橋:社会福祉協議会は、市民のみなさんと協力して地域福祉を進めるもので、当初は3、4人の職員でスタートしましたが、現在では250人の職員が地域福祉のほかにも、地域包括支援センターを運営したり、在宅福祉サービスを提供したり、ボランティア活動を活性化したりしています。

田中:地域福祉って、具体的にはどんなことですか?

大橋:ひとり暮らしのお年寄りの見守りや食事サービス、また、お年寄りが交流するふれあい・いきいきサロンの運営などをしています。大垣市には、こうしたサロンが220?230ヵ所ありますよ。

田中:大垣社協の特長としては、どんなことが挙げられますか?

大橋:まず、訪問介護(ホームヘルプ)サービスが充実していると思います。大垣市では、大垣社協が最初に始めたんですよ。当時は家庭奉仕員と呼んでいたんですが、自分の都合のいい時間に働けるようにしたことと、市民のみなさんに介護資格の取得を呼びかけことで、たくさんのホームヘルパーさんに登録していただけるようになりました。また、意外に思われるかもしれませんが、大垣市で初めて訪問看護ステーションを開設しています。大垣市医師会からの要請もありましたし、全国的に見ても社会福祉法人が運営していることが少なくないんですよ。大垣社協では、この2つにおいては市民のみなさんのご要望にお応えできているのではと考えています。

田中:今でこそ医療法人やスーパーなんかも、こうした福祉サービスに進出してきていますが、そういう経緯があったんですね。

大橋:そうですね。あとは、うちは女性の職員が多いんですよ。職員の7割が女性で、管理職も10人中5人が女性です。

田中:そうなんですよね、すごく比率が高くて。

大橋:大垣市では、自治会ごとに福祉推進委員さんを置いていただいていて、ひとり暮らしのお年寄りなどに声をかけていただいたり、また、何かあった時に情報提供していただいたりしていて、こうしたことも強みというか本当にありがたいことですね。

田中:大垣市ならではかもしれませんね、そこはやっぱり。

大橋:国から、共に生きる社会をつくりなさい、もっとコミュニティをちゃんとしなさいといわれるんですが、大垣市ではそれができあがっているので、私たちもとてもやりやすいと感じています。SDGsも上石津地区ではすでに独自に取り組まれていますが、地域にはそれぞれの特色や考えがありますので、地域のみなさんに寄り添いながら進めていければと思いますね。

田中:上石津地区はいろいろなことに積極的に挑戦されていますもんね。大垣市って、こうした地域福祉にとどまらず女性活動や環境活動にも、市民のみなさんの草の根のところからこつこつと積み上げてきていますね

大橋:大垣市は16万都市なんですが、まとまりがあるってよく聞きますね。

田中:大垣社協さんは非常勤の女性が多くて、結構、これって、個人で持ってらっしゃる想いが強いんだと思います。

大橋:それは感じますね。

田中:特に、こうした福祉サービスって、人と人のコミュニケーションが大切になってくるものですので。

大橋:やっぱり人が好きであったりとか、そこに働きがいとか喜びを感じられる方でないと、長くお仕事をしてもらえませんね。

田中:ただ、いつまでも好きだからとはいっていられないので、待遇面とかもしっかりと応えられるようにしていかないといけませんし、若い人たちにもこうした仕事の魅力を伝えていかないといけません。そういった意味では、SDGsはすごく役に立ちます。よくいわれるZ世代の人たちって、意外に働くことの意味とか社会に貢献したいとか考えているんですよ。

大橋:そうですね。本当に、今は恵まれてるかもしれませんが、このまま続けていくと、将来はどうなるかわかりませんね。

子どもたちから教わることが たくさんある。

田中:私も小学校や中学校でSDGsを教えることがありますが、どっちが教えられてるんだかわからないような感じになってきて。子どもたちの方がピュアで本質を突いてくるので、そういう子どもたちが大人になったときの社会を考えると、地域福祉にも新しい風が吹き込んでくれそうな気がしています。

大橋:田中さんがおっしゃるように、子どもたちに伝えるだけでなく子どもたちから教わりたいと、大垣社協では、1980年(昭和55年)から大垣市の保育園から高校までの子どもや生徒たちに福祉教育を始めています。学校の内外で助け合い活動をしてもらったり、福祉施設と交流してもらったりしているほか、年1回、「子どもの意見を聞く会」を開催しています。とても人気のあるイベントで、毎年、満席になりますよ。最近では、地域でも社会福祉やボランティアの体験活動をやっていただいていますので、そうしたことを発表する子どもたちが増えてきて、本当に感銘を受けますね。

田中:そんなに早くから福祉教育をされているんですね。そこにもSDGsのエッセンスがあると、いろいろな方向に広がると思いますよ。

大橋:岐阜県社協でも、福祉教育の「教」の字を「共」にしようかという話が持ち上がっているくらいで、福祉で共に生きていくことを子どもたちと共に勉強していこうということになりつつありますよ。

田中:ところで、大垣社協のSDGsへの取り組みとしましては、職員向けの広報誌『たまねぎ通信』で、SDGsについて啓発されているということですか?

大橋:そうですね。職員にSDGsのことを知ってもらうことから始めたんですが、うちのなかでもどんな職員がいるのかわからないという意見が上がりましたので、たまねぎ通信のなかで職員を紹介する「絆リレー」を掲載することにしました。また、「ワントライ、ワンチャレンジ、ワンミッション」という取り組みを始めています。みんなで職場や仕事の課題を見つけて、自主的に改善活動をしていこうというものです。地域福祉は地域が共に生きていこうというもので、それに携わる職員も共に支え合い、絆を深めていこうという想いがあります。

田中:職員のみなさんの反応はどうですか?

大橋:コロナ禍で職員の交流もできなくなっていましたので、そういう意味では「絆リレー」を始めてよかったと思います。SDGsについても、少しずつ浸透してきたような気がしています。


生活に困っている方への
食糧支援を始める。

田中:そもそも福祉サービス自体がSDGsみたいなところがありますので、日ごろの業務をSDGsに照合するところから始められればいいと思います。例えば、「みんなで支え合いバンク」なんかもSDGsそのものですよね。

大橋:コロナ禍で仕事ができなくて困っていらっしゃる方に、大垣社協として何かできないかということで、家庭の食料品などを提供していただき、そうしたみなさんにお配りしています。福祉施設などに「フードサポートボックス」を設置させていただいたりしながら、カップ麺や缶詰、インスタント食品、フリーズドライ食品などをいったん大垣社協でお預かりして、それをお困りの方にお渡ししています。

大橋:あとは、クリスマスにお弁当をお配りします。それは、山田次長からご説明しますね。

山田:そもそもうちの会長の発案なんですが、社協だよりでご案内してご応募いただきまして、12月25日のクリスマスに、一人親家庭の親さんや子どもたちにお弁当を取りにきてもらえるように準備を進めているところです。

田中:何かすごいですね。

山田:うちの会長には、子どもたちには腹一杯ご飯を食べさせたいという想いがあるんですね。本当は、炊き出しをやりたかったんですが。

大橋:大垣社協では、お年寄りへの福祉サービスは充実させることができてきましたが、子どもたちには取り組めていないところがありました。今年は、こうした子どもたちへの福祉サービスも増やしています。

田中:すばらしいお話を聞きしました。本当にみなさんの気持ちがこもっていますね。

大橋:ほかにも、地域の女性会・日赤・食改・民生児童委員や福祉推進委員などの女性のみなさんが、月に1回から4回、地区センターで食事を作って、ひとり暮らしのお年寄りのところに配られているんですよ。今は弁当ならどこでも買えるんですが、やっぱり手作りの温かいものを持っていきたいと。最近ではコロナ禍でできなくなっていますが、それでも見守りだけでなくて、食事を届けたいと工夫していただいている地域もありますよ。大垣市って本当にいいところですね。


SDGsを契機にして、さらに
絆の強いコミュニティに。

田中:それと、大垣青年会議所と災害時の協定を締結されましたね。

大橋:災害時、社会福祉協議会は災害ボランティアセンターを立ち上げるなどの役割を担っています。実際、荒崎地区の水害や上石津地区の土砂災害の時に、災害ボランティアセンターを運営した経験がありますが、最近の自然災害は想定外のことが起こりますので、大垣市でも防災士を中心にした地域防災に力を入れています。5年間で400人の方に防災士の資格を取っていただきながら、町内で防災訓練をしたりしていますが、地域防災においても、お年寄りや障がい者の方々に安全に避難してもらうのは緊急の課題で、こうした要援護者を含めた避難訓練を一緒にしていただいたりしています。

田中:地域のみなさんの協力がないとできないですもんね。

大橋:大垣青年会議所さんと提携させていただいたのは、災害時にこうした若い方のお力を借りて、災害ボランティアセンターの運営などを行っていきたいと。

田中:すばらしいですね。

大橋:阪神・淡路大震災があって、地域で共に助け合うことの大切さを教えてくれました。そこから、お年寄りの見守りが災害をキーワードに底上げできました。私は、同じようなことをSDGsに期待しています。SDGsが旗頭になって、さらに絆の強いコミュニティになってくれないかと思います。

田中:SDGsが、今までなら出会わなかった人たちとの連携を生んで、これまで考えもしなかったアイデアでいろんなビジネスが立ち上がっていく。私は、これこそが、SDGsのすばらしいところだと確信しています。大垣社協さんの場合だと、たまねぎ通信もみんなで支え合いバンクもそうですが、SDGsって意外に身近なことがわかってもらえる。そういった垣根を払ってやっていくことは、すごく意味のあることだと思いますよ。

大橋:何年かかるかわかりませんが、地道にやっていきますよ。

田中:これからどうされていきたいとかありますか?

大橋:こんなに近くに田中さんもいらっしゃいますので、SDGsを契機にして地域福祉で新しい価値観のコミュニティをつくっていけるよう、大垣市から発信していきたいですね。それには、福祉教育も大きなポイントになると思いますので、子どもから広げていけるようなことができないかと。また、やっぱりこれからの若い世代に向けて、地域福祉に携わることの魅力みたいなものを伝えていけるといいですね

田中:ある日、突然、環境省がこれってすごいねって取り上げてくれることだってなくはないので。私もRe:touchをさせていただいていて、いろいろな省庁から、これ、すごいじゃんとかおっしゃっていただいているんですよ。

大橋:大垣市も高校生までは福祉教育をしていますが、そのあと結婚されて子どもが生まれるまでの間に、地域福祉やコミュニティへの関わりが中断してしまっているような気がしています。こうした時期に何かできないかと考えています。

田中:若い人にもっと興味を持ってもらいたいですね。

大橋:お年寄りがお年寄りを見守るというのも、これも生きがいという点ではありの時代には違いないですが。

田中:大垣市にできたミドリバシ、ああいう発想が欲しいですよね。

大橋:そうなんですよね。

田中:ああいう若い人が来て。

大橋:私がここに入ったころは、「しゃきょう」というと、社会教育課のことでした。社会福祉協議会もずいぶん浸透してきましたので、これからいろいろなことができるようになればいいですね。

田中:ありがとうございました。

TOPIC

  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
大垣市ボランティア
市民活動支援センターのマスコットキャラクター
「あいちゃん」。
大垣市社会福祉協議会が運営している「大垣市ボランティア市民活動支援センター」。ボランティアコーディネーターが、ボランティアをやってみたい方から、すでにボランティア活動を始めている方、ボランティアを必要とされている方まで、ボランティアについてあらゆる相談に乗っている。また、機関誌『広がれ!ボランティアの輪』やブログで、ボランティア情報やボランティア団体の活動などを情報発信している。
このマスコットキャラクター「あいちゃん」が赤い羽根共同募金でリリースされた。大垣市の頭文字“O”と大垣市の花“さつき”をモチーフにデザインされており、「つながり」「ささえあい」「よろこび」「ぬくもり」の4つの想いを、「心のあい」をイメージさせる3つのハートに込めている。また、あいちゃんが明るい未来へ向かって歩み出す姿は、みんなでボランティア活動に踏み出す躍動感を表している。今後、大垣市ボランティア市民活動支援センターの広報やPRなどに活用される。

Company PROFILE

企業名(団体名) 社会福祉法人 大垣市社会福祉協議会
代表者名 会長 金森 勤
事務局長 大橋 奈麻輝
所在地 〒503-0922
岐阜県大垣市馬場町124(大垣市総合福祉会館内)

Re:touch Point!

SDGsでの気づきや出会いが、地域福祉を変えるきっかけに。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
これまで、大垣市の環境保全や女性問題など市民活動について取材してきたが、それぞれがしっかりとしたコミュニティ、市民のみなさんの草の根の活動に支えられていた。大橋さんによると地域福祉もまた同じで、その土台に女性の大きな存在があるのも大垣市の特長といえる。
また、大垣市では、1980年(昭和55年)から福祉教育に力を入れており、「子どもの意見を聞く会」は毎年、満席になる。子どもたちと地域福祉を「共」に学んでいきたいとおっしゃっていたが、私もSDGsを子どもたちに教えていて、どっちが教えられているのかわからなくなることがある。本当に、子どもたちのピュアな視点にはいつも驚かされる。
SDGsへの取り組みはまだ始められたところだが、福祉サービス自体がSDGsそのものなので、日ごろの業務を改善することがSDGsにつながるなど、職員のみなさんに身近に感じてもらうことがSDGsを浸透させる近道。SDGsがこれまでになかった気づきや出会いを生み、大垣社協や福祉教育、そして、地域福祉が変わっていくきっかけをくれることを確信している。