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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 33
家主も、起業者も、地域も、
みんな「よし」の古民家再生。

株式会社現代設計事務所(岐阜県大垣市)

代表取締役会長 桐山 貞善さん[写真右]
代表取締役社長 奥村 忠司さん[写真左]
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
会社の周辺でイベントのチラシ配りをしていた時、荒廃した空き家を見て衝撃を受けたという現代設計事務所の奥村さん。これからは、今ある建物を生かすことも自分たちの仕事ではないかと、2015年、家主も起業者も地域もみんながうれしい空き家の再生事業に取り組み始めた。当初は、空き家の家主と起業者をマッチングする役割を担ったが、なかなかうまくいかず人を育てることが先決だということに気がついた。
そして2019年、古民家レンタルハウス「ennoie ミドリバシ」のオープンに漕ぎ着ける。ここで起業者に腕試しをしてもらい、実際の経営につなげてもらおうというものだ。そこへ、コロナ禍が直撃。今年の4月にめでたく起業者を誕生させることができたが、ビジネスとしてはまだ産声を上げたにすぎない。これからどうやってビジネスとして成立させていくか課題が残るなか、みんなが社会に役立っているという実感が持てる仕事をしていきたいと語る。
今回は、現代設計事務所の会長の桐山貞善さんと社長の奥村忠司さんに、古民家再生やリノベーションについてお話を聞いた。

今ある建物を生かすことも、
私たちの仕事じゃないかと。

田中:まずは、現代設計事務所さんはどんなことをされているのかお話しください。

奥村:1987年に桐山貞善が大垣市で設計事務所を始めまして、来期で創業34年になります。2014年ぐらいに会社のイベントのチラシ配りを周辺2kmぐらいでやっていた時に、空き家がすごくあるなと初めて気づいたんですよ。本当にひどいところだと庭の木が生い茂って、ナンバープレートが外れた車まで放置してあるような状況を見て、ちょっと衝撃というか気づきがありました。私たちは地域で建築をやってきた身として、その結果がこれなら、建物を生かすことも私たちの仕事じゃないだろうかと。そこで、2015年から空き家の再生事業に取り組み始めました。

田中:早いですね。それほど衝撃だったということですね。

奥村:空き家問題が叫ばれ始めたころだと思います。また、それと同時に建物も新築ではなく今あるものをリノベーションすることも始めました。最初は、家主さんからこの空き家を何とかしてほしいと依頼され、その空き家を使いたい方とマッチングするという役割を担っていました。地域で将来何かをやりたいという方が、意外とたくさんいるんですよ。飲食店をやってみたいとか、ヨガなどのカルチャー教室をやってみたいとか。ただ、そのあとがなかなかうまくいかないんですね。マッチングした空き家で新しい事業を始められるんですが、退去されたり自然消滅されたりとかで長続きしないのが2件ほど続いて。どうしてうまくいかないんだろうといろいろ考えて、人を育てないといけないということに気づいたんです。そういった方を支援する体制をつくって、人があって場所があってという流れにしないとダメだろうと。

田中:まずは、人づくりからということですね。

奥村:そこで、2019年にですね、実はその3年ぐらい前から今の「ennoie ミドリバシ」のあるところには目をつけていて、会長が家主さんとずっとお手紙で交流を続けられていました。ここを飲食店に使いたいという方がいっぱいいたんですが、そんなものに使ってほしくないと。ただ、その家主さんのご親戚の方が所有する空き家を再生するにあたっていろいろと話をさせていただいた時に、現代設計事務所なら変なことに使わんぞとその親戚の方がお口添えをしていただいたらしくて、3年後にお許しをいただきました

田中:会長の熱い想いが伝わったんですね。

奥村:じゃあ何に使おうかとなって、スターター向けのレンタルスペースをつくろうということに決めたわけです。将来、飲食店やカルチャー教室をやりたい方たちがそこで腕試しをして、私たちが以前からやっていた空き家とマッチングをするという流れがつくれれば、その方たちにとってもまちにとっても私たちにとっても、「三方よし」になるのではと始めたんですね。最初はそういった起業や創業したい方を集めるためのイベントをやって、そのなかでカフェをやりたいという女性がいらっしゃって。さあこれからだぞ!という時に、コロナの影響を受けてしまって。いったんイベントやスターターの募集をキャンセルして、この事業自体もしばらく休業しました。制限が緩和された昨年の7月ごろに再開して、さあ何をしようかという時に、うちの若手の垣本、河村、豊田がここで野菜を売りましょうと。野菜の販売とカフェをやる超早朝モーニングっていうのを始めたんですよ

桐山:朝の6時から8時までですよ。

田中:そんなに朝早くに!

奥村:朝4時過ぎにここにきて、仕込みを。1人は野菜を売って、あと2人がモーニングのカフェをという感じですね。地元のお年寄りの方たちが、散歩がてらにたくさんいらっしゃって。

桐山:お年寄りが多いんですよ、このあたりは。

田中:そうなんですね。

奥村:スーパーに行くのが大変だからものすごくありがたいという声をいただいて、毎朝安八から無農薬の野菜を運んできてほぼ原価で販売していました。コロナ禍ということもあって、地域の方に大変喜んでいただけました。そして、これが起爆剤になって、カフェをやりたいという方も生まれてきました。

田中:やはり、それで喜んでもらえたっていう経験があってですね。


3年目にしてようやく、
1人の企業者を誕生させた。

奥村:そうですね。それで、昨年の9月からもともと飲食店で働いていた男性が、将来自分の店を持ちたいということで、ここでスタートアップをして。今年の4月26日に、近所の赤いビルにお店をオープンしたのが、ここの初めての卒業生なんですよ。もともと1階は駐車場だったんですが、ビルのオーナーが地域のために使いたいと。地域に貢献したいビルのオーナーと地域で活躍したい男性をマッチングして、それを私たちが支援していくという形でお店の設計やリノベーションを行い、1人の起業者を誕生させることができました。空き家だったビルが再生してまちの雰囲気もよくなったし、地域でがんばりたいという方に活躍の場を与えることができたし、もちろん私たちにとっても利益になりました。3年目にしてやっと、みんなが喜んでくれることを事業としてやる実績ができたことはよかったかなあと思います

田中:先ほど2015年からとおっしゃいましたが、すごく早いなと感じていまして。今でこそ古民家再生が全国的にいわれるようになっていますが、当時では疑問を持たれたりしませんでしたか?

奥村:2013年ごろに経営発表会でリノベーションという言葉を初めて使ったんですが、ちょうど英語の教師をされている方が参加されてしていまして、「そんな言葉聞いたことない」といわれたりしましたね。

桐山:大垣市の荒川に、築70年ぐらいの庄屋さんみたいなの家がありまして。そこの家主さんは今は名古屋に住んでいらっしゃるのですが、年に数回実家の大垣に戻ってくる時にうちの会社の前を通られるんですよ。不動産屋さんに売却を頼んでも二束三文だし、立地的に太陽光発電くらいしか使えないといわれてしまって。何とかできないだろうかという相談をいただいたんですよ。うちなら変なことには使わないだろうと。ただ、私たちも経験のないことだったので公募したら17組も応募があって、そこから1年ぐらいかけて審査をして1組に絞り、家主さんのお墨つきももらって。これも、この事業のそもそものきっかけかもしれないですね

田中:今はこうして1人巣立っていかれましたが、社長もおっしゃられたように人を育てることは非常に大切だと思います。私たちも美濃市の古民家の再生に出資させていただいていて、この取材で知り合った方と手を組んでやらせてもらっています。美濃市は重要文化財もたくさんあって、そういうストーリーも作りやすいんですが、大垣市は良くも悪くも恵まれていて、意欲はあっても新しいことに奥ゆかしいというか消極的な部分がある気がしています。今のお話を伺っていて、大垣市にこういう形ですてきなお店が生まれていくことがすごくうれしく感じられます


自分が、社会に役立てている
という実感が持てる仕事を。

奥村:正直いって、建築は社員が世の中の役に立っているという実感がなかなか得られにくい業界なんですよ。そんななかで、こういった社会貢献は自分たちは社会の役に立てているんだというモチベーションのためにも絶対に必要なことで、これがちゃんとした事業になればやりがいも出ますし会社としても強くなっていきますので、今日取材していただいているSDGsなんかに取り組むことはぜひやるべきだと思います。

田中:今の時代だからこそ廃材をしっかり再利用するリノベーションとか、3R(Reduce、Reuse、Recycle)の考え方とかはもっと強くしていかないといけないですよね。職人のみなさんにとっても、古民家のリノベーショですごく入り組んだ柱を再生するみたいなのは腕が鳴るというか、ものすごい技術なんだろうと思いますし、先ほどの若手の方の超早朝モーニングでお年寄りの方に喜んでいただいた話とかもそうですが、そういった経験でモチベーションが上がっていって、この会社で働いてよかったっていうところにつながっていくと思います

奥村:私なんかはバブルを経験した世代なので、いい暮らしやクルマ、モノをっていう消費中心の思考があるんですが、今の若い人たちはモノ1つ買うにも本当に必要なものしか買わないし、モノができ上がるまでのストーリーを感じながら購入するという面もありますよね。その代わりに、彼らの方が私たちよりも人の役に立ちたいという気持ちがずっとあると思います。例えば、若手の垣本が取材を受けて新聞記事に載ったんですが、記事には自分の名前しか出ていなくて申し訳なく思って彼に連絡したら、「そんなことよりも僕は自分が社会に貢献できたことだけで十分です」といわれて。

田中:うれしいですね、社長。

奥村:本当にうれしかったですよ。彼らの夢を実現させてやらなきゃいかんと改めて思いましたね


リノベーションは、人やまちにも適用できる。

田中:家を建てるにあたって、リノベーションの価値をわかったうえで購入してくださるお客さんもいらっしゃれば、新築がいいと思うお客さんも当然いらっしゃると思いますが、現代設計事務所さんでは早くから手がけられていましたし、先行した分のノウハウなどもやはりあるのでしょうか?

奥村:そうですね、一番大きいのは、建築の枠を超えて考えられるという部分だと思います。建築業界はどうしても造ってなんぼという世界なので、大局的な視点は持ちにくいというか、まちを活性化させるために何をしたらいいかという面で追及していくことがなかなか難しいですよね。そんななかで、10年先を見越して何ができるかという意見が出しやすいうちの社風は、リノベーションに取り組んできたおかげかなあと思いますね。

田中:世の中にいいことをしようと思っても、それが事業化できないのなら、経営者としてはどうかという考えもあります。その点、奥村さんのお話を聞いていますと、すごく強い想いが柱になっていらっしゃるからこそ、ブレずに進んでいけていると感じたのですが、そのあたりのこだわりみたいなものがあれば、お聞かせいただければと。

奥村:うちには、ミドリバシを運営している「賑わい創造事業部」と、通常の建物を設計して管理する「設計監理部」、リノベーションを主に手がける「住宅事業部」の3つの事業があって、これらを合算して何とか経営ができているという状況です。はっきりいってまだまだこの取り組みは事業化という段階ではないんですが、今回初めて起業というところまで漕ぎ着けて、私たちの強みを生かしたリノベーションを含んだ取り組みができました。これをどんどん進めていけば、例えば、最初はこのエリア限定ですが、西濃地域、岐阜地域と広がっていければ1つの事業として確立しますし、ほかには自分たちで空き家を買い取ってそこをリユースや賃貸という形で若い方たち向けに提供していくとかですね。そういった空き家やリノベーションを活用する事業は、たぶんこれから無限に出てくると思います。リノベーションって建物だけじゃなくて、人やまちにも適用できる広い概念で、どんな風にも展開できるなと思いますから、そこを突き詰めていきたいですね。

田中:私もその可能性を感じています。

奥村:昨今はカーボンニュートラルが話題になっていて、断熱だとか省エネだとかそういう面が先行しますが、建物を壊さないというのも1つのカーボンニュートラルだと思うんですよ。建物を壊せば産廃が出て、燃やせば二酸化炭素が出ます。そう考えると、なるべく壊さずリノベーションすることも、カーボンニュートラルにつながりますね。

田中:リノベーションの勉強会も、こちらでやられているとお聞きしたんですが?

奥村:最近はコロナでなかなかやれていないのですが、そういう考えを広めていきたいなと。

田中:大垣市の上石津では空き家が結構契約で埋まっているとか、移住定住される方が増えているみたいな話があるんですよ。大垣市って空き家率はどうなんでしょうか?

奥村:そこそこありますね。

田中:今カーボンニュートラルのお話をされましたが、貴社としてはZEH(Zero Energy House)にもしっかり取り組んでいらっしゃいますよね。大垣市だとあまりZEHって聞かないですし、全国的にもまだまだですから、これはすごいなと思います。やはり、世の中にいいことには早くから取り組むという社風があられるのでしょうか?

奥村:そうですね、それはあると思います。先代の会長が情報をキャッチしたらすぐそこに飛び込んでいくというか、会いにいくというか。


起業者をいかに発掘するかが、
これからの課題。

田中:会長と名刺交換をさせていただいた時に、「僕らも本当に真剣にSDGs考えないといけないと思うんだ」っていわれて、現代設計事務所さんのホームページを見させていただいたら、いやいや何をご謙遜をと思いまして。私はそもそもSDGsを掲げるとか掲げないとかは二の次だと思っていて、本当にしっかり取り組んでいらっしゃいますし、先ほどから社長のお話をお伺いするとすごく想いを持っていらっしゃるので、私はこれが一番大事だと思います。自分たちが取り組んできたことを整理するために、SDGsを使っていただければいいんじゃないかと思いますね

桐山:ありがとうございます。

田中:ここまでいいお話を伺ってきましたが、課題などはあるのでしょうか?

奥村:まず起業者をいかに発掘するか、そういう方たちと出会うことができるかという部分ですね。今年は数値的な目標を立てていて、10人の起業者に会えるように行動しようと考えています。もう1つは起業者と出会えた時に、場所として提供できる空き家や古民家というものをストックしていなければならないですよね。この2つが大きな課題になるかなと思います。

田中:この事業を広げていこうというご意志みたいなものはお持ちなんでしょうか?

奥村:いい物件があれば、そこを新たな拠点にしたいなというのは考えています。

田中:こういういい取り組みは共感を生んでいくと思います。これが若い人たちに伝わって、大垣市でもこんな地域活性化のために取り組んでいる企業があるんだと広まってほしいですね。

桐山:うちは毎年高専の生徒さんがインターンシップで来ていまして、ここをやっている垣本も高専の卒業生なんですが、今の若い人たちってうちみたいな小さな会社でも、こういうことがやりたいっていうのがあると来ていただけるんだと思って。

田中:うれしい話ですね。だからモチベーションなんでしょうね。

桐山:本当にそう思います。

田中:今日は、本当にありがとうございました。

TOPIC

  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
飲食店などのトライアルができる
古民家レンタルハウス。
現代設計事務所の賑わい創造事業部が運営する「ennoie ミドリバシ」は、これから飲食店を始めたいけど、すぐに始める勇気がない、場所もない。設備もない。そんな方が、トライアルとしてチェレンジできる築70年の古民家をリノベーションしたレンタルハウス。「大垣を日本一楽しいまちにする」ことをめざしており、地域の空き家問題を解決してくれるものとしても期待されている。
これまでに、レストランやヨガ、朝市、ワークショップなど30以上のイベントを開催した実績があり、ミドリバシでの経験を生かして実際に焼き菓子のお店やヨガ教室をオープンされた方もいる。また、ミドリバシでは空き家の魅力を知ってもらため、「ミドリのいち」というマルシェも開催しており、マイバッグやマイ食器の持参を呼びかけるなど、SDGsへの取り組みを進めている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 株式会社現代設計事務所
代表者名 代表取締役会長 桐山 貞善
代表取締役社長 奥村 忠司
所在地 〒503-0931
岐阜県大垣市本今4丁目17

Re:touch Point!

大垣市の空き家がすてきなお店で埋まっていくのが楽しみ。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
以前、現代設計事務所の会長である桐山さんから、真剣にSDGsに取り組んでいきたいと聞いていたが、2015年という早い段階から空き家の再生事業を始められている。近年、全国的に空き家が社会課題として顕在化しており、しかも、現代設計事務所さんが進められている空き家再生事業の根底には、空き家の家主、地域でがんばりたい起業者、大垣市のまちづくり、そして、現代設計事務所さんと、三方も四方もよしの考え方がある。
これこそが、まさにSDGs。私はそもそもSDGsを宣言するかしないかは二の次で、現代設計事務所さんのように熱い想いがあることが一番大事だと確信している。「若い人の方が、社会の役に立ちたいという気持ちがずっとある」。社長の奥村さんがお話しされていたが、彼らの夢を実現させてやりたいとも聞いた。すばらしい会社。大垣市の空き家がすてきなお店で埋まっていくことを本当に楽しみにしている。