お問い合わせ

Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 29
SDGsの視点を持った
グローバルな人材を育成。

岐阜県立大垣工業高等学校(岐阜県大垣市)

工業部長 田中 正一さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
SDGsの視点を持ったグローバルな人材を育成している岐阜県立大垣工業高校。5年前からSDGsへの取り組みを始めており、組織開発理論を取り入れたSDGs推進委員会を設置するほか、学校経営計画にもSDGsの取り組みを明記している。これらはすべてSDGsへの取り組みを継続していくためのもので、トップダウンではなく対話型の組織開発で生徒や教職員へ無理なくSDGsを浸透させている。
SDGsをテーマにした校内のプレゼンテーション大会を開催したり、大垣特別支援学校からの依頼で3Dプリンタを活用した教材開発を行ったりと、卒業生の7割が就職するという工業高校ならではの特長を生かした活動を展開。大垣工業高校でSDGsを先導する田中正一先生は、工業高校こそSDGsに取り組むべきと語る。今回は、間もなく100周年を迎える大垣工業高校でのSDGsの取り組みを紹介する。

海外でのインターンシップにも
意欲的に取り組む。

田中(信):大垣工業高校はもうすぐ100周年なんですね。まず、簡単な概要から教えてください。

田中(正):そうですね。岐阜県で第一工業高校、第二工業高校というように工業高校が生まれて、それが岐阜工業高校と大垣工業高校になります。当初は、機械と電気がベースの学科しかありませんでしたが、現在では、地域のニーズに合わせて7学科8クラスになっています。

田中(信):インターンシップにも注力されているとお聞きしましたが?

田中(正):岐阜県や地域のインターンシップはもちろんですが、この2年は休止していますが、6、7年ほど前から、海外でのインターンシップも意欲的にやっていますね

田中(信):大垣工業高校は、グローバルな視点でがんばっていらっしゃるイメージを持っているんですが?

田中(正):ありがたいことに地域の企業からのニーズがあるのと、大規模校なので研究指定に採択されることが多いんですよ。それで、グローバル教育に力を入れるようになって、東南アジアでのインターンシップがきっかけで、また、保護者のご理解もあって、毎年、10人ほど海外でインターンシップするようになっています

田中(信):どうしてSDGsに取り組まれようになったんですか?

田中(正):平成29年度に専門高校生国際化推進事業に採択されまして、当時の校長から挑戦してみてはどうか?といわれ、これからはサステナビリティだぞってヒントをいただき、ESD(Education for Sustainable Development)に取り組むことにしました。ESDについて勉強していくうちに、これからのものづくりには欠かせないことだと、自分のなかで納得することができたんですね。

田中(信):文科省が進めている「持続可能な開発のための教育」からスタートされたんですね。

田中(正):それで、その年の文化祭でフェアトレードのことをやったりすることから始めました。このESDをどうやって浸透させていったらいいのか、いろいろと悩みながら地道に続けてきました。そのあとに、SDGsが叫ばれるようになって、SDGsへとシフトしていきました。

田中(信):企業も同じですよ。どうやって社員に浸透していくかが課題になっています

田中(正):実は、次の年から2年間、大学院に行かせてもらったんですね。その時に、組織開発理論というのを研究していまして、「SDGs推進委員会」を設置してSDGsをどのように浸透させるか取り組んできましたが、その認識状況を把握するアンケートではなかなか思うような結果にならなくて。

田中(信):大垣工業高校は少し違うぞって思っていましたが、ここまでしっかりやられてこられたんですね。すごく納得しました。


SDGsを話題づくりだけで
終わらせるのはやめようと。

田中(正):私が校長からやってみろといわれた時に、SDGsを話題づくりだけで終わるのはやめようと。学校って、普段からいろいろなことをやっているんですね。それも十分にSDGsだと思っていますので、先日も上石津中学校と交流したんですが、このことを生徒に言い聞かせました。SDGsを特別視することだけはやめようと、この5年間ずっとやってきました

田中(信):SDGSの根本的なところから勉強されて、ご自身が納得をされたうえで、生徒や教職員の皆さんに浸透されているんですね

田中(正):若手や中堅の先生が率先して授業に取り入れてくれたりしていましたが、この2年間はコロナ禍で授業時数が減少していますので、そういうゆとりもなくなってしまいました。

田中(信):SDGsへの取り組みの主体となっているのが、先ほどお話になった SDGs推進委員会なんですか?

田中(正):はい。うちは工業科と普通科の教員が100人を超えますので、工業科の代表教員チーム、普通科の代表教員チーム、そして、委員長とそれぞれのチームの代表などで構成する開発チームと、SDGs推進委員会のなかに3つのファシリテートチームをつくって組織開発しています。でも、特別にやるぞというのではなく、朝会の後とかに話し合ってねっていう感じです。

田中(信):無理をしないのがいいです。

田中(正):校長からも、ずっと続くようにやりなさいっていわれています。どうしても教職員は異動がありますので、その先生がいなくなったら終わりとならないように

田中(信):SDGsは巻き込み型にしていかないと、それこそ根づかないので、敷居を下げていくことが一つだと思っています。自分たちの考え方を見直す機会としてSDGsを活用されて、今に始まったことじゃないってところにつげていかれたんですね。

田中(正):はい、本当にそう思います。

田中(信):最初の2年間は組織開発理論を研究されていて、その後に、SDGsに取り組まれるようになったのですか?

田中(正):そうですね。1年目は大学院にずっといまして、2年目は週1日だけスクーリングで、あと4日間は学校にいました。なので、大学院での1年間を除いて、学校で生徒を巻き込みながら活動していました。

田中(信):5年間、SDGsに取り組んできて、生徒の反応などいかがですか?

田中(正):私の学科の生徒だと、私の顔を見ればSDGsってぐらい定着しています
これまでは、新入生が入学したら、大垣ユネスコ協会の方に講話してもらって、全員にSDGsの資料を配付したりしていたんですが、コロナ禍でそれができなくなっています。ただ、校内には美術部の生徒たちが作ってくれたSDGsの啓発ポスターを貼っていますし、マスコミでも SDGsが取り上げられるようになっていますので、うちの学校もやっているなぐらいの認識はあると思っています。

田中(信):生徒さんにも、少しずつ浸透してきているということでね。

田中(正):だと思います。ただ、7学科8クラスで900人ほど生徒がいますし、学んでいることも多岐にわたっていますので、全校で一斉にというわけになかなかいかないんですね。

田中(信):まあ、そこはあまり無理してもね。SDGsを浸透させることは多くの企業が抱えている課題でもあって、無理をすると本当に続かなくなってしまいますので。SDGsって突き詰めていくと、自発的にやるとか、自分ごと化するということですからね

田中(正):ありがとうございます。


自分が卒業した上石津中学で、
SDGsについてグループ交流。

田中(信):田中先生の生徒さんは、積極的に活動されているんでしょうね。

田中(正):そうですね。大垣ケーブルテレビでも取り上げていただいたんですが、上石津中学校出身の生徒4人が、母校に行って、SDGsのプレゼンテーションやグループ交流会をやってくれました。うちの学科だけでなくほかの学科の生徒にも呼びかけてくれて。上石津中学校の生徒たちに、給食を残さないようにとか、本当に上手いことやってくれました

田中(信):大垣特別支援学校と協働したテクノコラボレーションもやられていて、これらの活動は十分にSDGsにつながっていると思いますよ。

田中(正):テクノコラボレーションのほかにも、小学生を対象にしたICT講座もやっているんですが、こうしたことがSDGsだって教員も理解してやってくれていますね

田中(信):工業高校は特色のある学校なので、SDGsとの親和性が高いですね。

田中(正):それは絶対だと思います。工業高校はSDGsに取り組むべきだと思うんですね。地域の企業でもSDGsへの認識が深まっていて、今年の入社試験で、わが社のSDGsの活動で知っていることを教えてくださいって面接で聞かれたそうです。その生徒がたまたま私の班だったので、私の学校で私の担当の先生がといってくれました。

田中(信):逆に、学生が会社を選ぶ際の選定基準にも、SDGsが入ってきたりしていますからね。

田中(正):そうなんですね。

田中(信):SDGsのほかにも、グローバルという視点からの人材育成をめざされていて、本当に幅が広いなと。


高校でSDGsやっていましたと
会社でいえるように。

田中(正):この学校では、生徒の7割が就職するんですね。みんなSDGsは知っているよぐらいにして地域社会に送りたいと思っています。本当は、みんなペットボトルを使わないぐらいにはしたいんですが、まずはSDGsへの認識は持っていてもらうことが第一の目標です。そして、会社に入ったら、高校でSDGsやっていましたとかいって、率先して取り組んでくれたり、リーダーになったりしていけば、どんどん自信がついていくのかなと思って。とにかく、できることを継続的にやっていこうと。これを5年続けたら、ほかの学校をリードする武器になるので。今はコロナ禍で難しい面もありますが、SDGs推進委員会は継続しているので、先生方も協力的に動いてくださいます。ただ、先ほどからの繰り返しになりますが、トップダウンだけはやりたくないです。やっぱり対話型の組織開発をしながら、SDGsに取り組むと生徒にいいことあるよっていうポジティブなやり方で、SDGsを浸透していききたいと思っています

田中(信):グローバル人材育成プロジェクトでやられた、SDGsを題材にした校内プレゼンテーション大会ってどういうものですか?

田中(正):実は、この研究指定事業に採択された時に、とても熱心な英語の先生がいらっしゃいまして。1年生は、「情報技術基礎」という課題研究の授業で、PowerPointを操作する練習としてSDGsをテーマにしたプレゼンテーションを、また、2年生は、「コミュニケーション英語」という課題研究の授業で、テーマを決めて英語によるプレゼンテーションをしようということになりました。1年生も2年生もクラスごとにグループ発表会を行って、そのなかで優秀なグループが、校内のプレゼンテーション大会で発表しました。

田中(信):おもしろそうですね。

田中(正):うちには、ELTという英語の先生もずっといらっしゃたので、ネイティブな英語を教えてもらいながら、2年生は、プレゼンテーションも、質問も、回答も、すべて英語で行いました。これもコロナ禍で休止しているんですが。

田中(信):英語しか話してはいけなかったんですね。

田中(正):あと、海外からの留学生がよく遊びにきてくれるんですよ。工業高校ではいろいろなことをやっているんで、きっとおもしろいんでしょうね。アメリカのオレゴンとかアイスランドとか中国とか。生徒たちも片言の英語で話しかけたりして、楽しくコミュニケーションしていました。


大垣工業高校らしい
SDGsの取り組みができたら。

田中(信):これからやっていきたいこととかありますか?。

田中(正):大垣工業高校では、SDGsの視点を持ったグローバルな人材を地域社会へ送り出していくことをめざしています。これからは、地域の企業や学校、行政などと連携して、何かできないかと思います。先日の上石津中学校との交流で、その大切さを痛感しましたね。また、先ほどおっしゃったように、工業高校はSDGsとの親和性が高いと思いますので、大垣工業高校らしいSDGsへの取り組みをしていきたいですね。

田中(信):大垣市は製造業が多いんですが、地元の企業からのアプローチはあるんですか?

田中(正):もう、たくさんあります。

田中(信): SDGsの視点だけじゃないですよね?

田中(正):昨日も来ていただいたんですが、大垣市の未来ビジョンの講座をやっていただいたり、技能五輪全国大会に向けてロボットの講座をしていただいたりしています。こうした方がいらっしゃった時に、校内に掲出しているSDGsのポスターを見られて、興味を持たれることが増えてきましたね。

田中(信):私は、上石津中学校との交流のお話を聞いて、とても斬新に感じました。

田中(正):大垣市議会の議長さんとお会いする機会がありまして、その方からヒントをいただきました。上石津中学では、ファッションブランドに協力してもらって、SDGsに取り組んでいるんですね。

田中(信):上石津中学校らしいSDGsの浸透をしていきたいと、私もご相談をいただいていますよ。でも、大垣工業高校さんは、しっかりしたポリシーを持たれてSDGsに取り組んでいらっしゃるという印象を受けました

田中(正):大垣工業高校では、「SDGsの取り組み」を学校経営計画に明記しているんですよ。こんな高校なかなかないと思いますが。

田中(信):大垣市も環境SDGsおおがき未来創造事業をスタートしましたし、大垣市でSDGsへの関心が高まってくると、大垣市は製造業が多いですから一気に盛り上がってくるかもしれませんね。

田中(正):岐阜県には10年ごとの教育ビジョンというものがあって、これまではSDGsについては簡単に触れられていただけですが、ここにSDGsやサステナビリティが入ってくると、学校教育も変わってくると思いますね。

田中(信):SDGsって、コツコツ積み上げていくことが大切なんです。その点、大垣工業高校はしっかりと地に足を着けていらっしゃいますので、早くコロナ禍が終息して、また、みんなでワイワイできるようになるといいですね。


高校生たちのアイデアが生きている
「平仮名なぞりボード」

田中(正):大垣特別支援学校とのテクノコラボレーションについて、ご紹介させていただいてよろしいでしょうか?

田中(信):ぜひ、お願いします。

田中(正):毎年、大垣特別支援学校から依頼を受けて教材開発を行っているんですが、昨年度は、新しく導入した3Dプリンタを活用して「平仮名なぞりボード」に挑戦しました。2年目の飯沼先生が担当してくれました。

飯沼:大垣特別支援学校の生徒が平仮名を覚えるために、文字プレートをつくってもらいたいということになりまして、3年生の課題研究の授業で行いました。まず、3DCADを知らなかったので、そこから教えて、実際に3Dプリンタを動かしてみることから始めました。

田中(信):本当に、初歩からのスタートだったんですね。

飯沼:3Dプリンタの使い方がわかってきた段階で、どんな大きさにしたら見やすく使いやすいか、大垣特別支援学校の生徒たちはこれをどうやって使うのか、文字ボードの設計に入りました。当初、鉛筆やシャープペンでなぞることを想定していましたが、夏のオンラインミーティングで、指でなぞって覚えさせたいということを聞いて、指でなぞれる大きさに設計を変更しました

田中(信):それで、指でなぞれるように、平仮名の形にくり抜いてあるんですね。

飯沼:私も、うちの生徒にいわれるまで気づかなかったんですが、筆順があると覚えやすいんじゃないかということになって、ボードに書いてある数字は筆順なんですね。

田中(信):なるほど。これには、高校生たちのアイデアが詰まっているんですね。

飯沼:大垣特別支援学校の先生にもとても喜んでいただいています。

田中(信):こうやってものづくりが行われていくんですね。ありがとうございました。

TOPIC

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
大垣特別支援学校からの依頼で、
平仮名なぞりボードを開発。
大垣工業高校が、大垣特別支援学校との協働で教材開発を行う「テクノコラボレーション」。令和2年度は、新たに導入された3Dプリンタを活用して、指や鉛筆などで空間をなぞることで、平仮名の形状を覚える教材に挑戦した。平仮名をくり抜いたボードに筆順を加えるなど高校生のアイデアが生かされており、大垣特別支援学校の生徒からも使いやすいと喜ばれている。

PROFILE

企業名(団体名) 岐阜県立大垣工業高等学校
代表者名 校長 浦山 朋征
所在地 〒503-8521
岐阜県大垣市南若森町301-1

Re:touch Point!

SDGsは特別視するのではなく、無理なく継続することが大切。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
岐阜県のなかでも製造業が多い大垣市にあって、即戦力の人材を輩出されている大垣工業高校。早い段階からSDGsに取り組まれ、対話型の組織開発でSDGsを浸透されたり、学校経営計画にもSDGsを明記されるなど、しっかりした考え方で取り組まれていると感じた。
私は、SDGsは巻き込み型にしていかないと根づかないので、SDGsの敷居を下げていくことが大切だと考えているが、大垣工業高校もSDGsを特別視するのではなく、無理のないところで継続されているところがすばらしい。
また、大垣工業高校の生徒が、上石津中学校でプレゼンテーションやグループ交流をしたことは、とても斬新。地元の先輩から身近なSDGsの話が聞ければ、中学生たちにSDGsを自分ごととしてとらえてもらうきっかけになる。
田中先生が、SDGsへの取り組みを5年間続ければ大垣工業高校の武器になるとおっしゃったが、こうした生徒たちが大垣市の製造業で活躍するようになると、きっと地域のSDGsもブレークスルーするのではと大きな期待を抱いた。