お問い合わせ

Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 18
カンボジア人技能実習生も、
誰一人取り残さない。

一般社団法人 カンボジア人支援協会(岐阜県岐阜市)

代表理事 スン・陽子さん
スン・サンさん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 01 貧困をなくそう
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 10 人や国の不平等をなくそう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
カンボジア人支援協会のように、言葉が通じない異国の地でがんばる在留外国人を、身近なところで助けてくれるのは、全国的にも少ないそうだ。こうしたサービスを維持していくための運営費を転嫁するところがなく、在留外国人が置かれている現状を何とかしたいという想いがあっても長続きしないのだ。
スン・サンさん、陽子さんご夫婦は、カンボジア語の通訳の仕事をしながら、おもにカンボジア人技能実習生の悩みや相談に乗っている。日本でキャリアアップしたいと大きな夢を抱いて来日する外国人が、その多様性を理解していない無分別な振る舞いに、日本への失望とともに大きなショックを受けることも少なくない。
鎌倉時代、夫の横暴から妻を救ったという東慶寺のことが、頭をよぎった。SDGsの根底にある「誰一人取り残さない」。カンボジア人技能実習生も取り残してはいけない。カンボジア人支援協会が、SDGs版の駆け込み寺として役割を果たしていると思った。

Movie


日用品を買ってあげていたら、
悩みを相談されるようになって。

田中:岐阜県に、カンボジアの方々はどのぐらいいらっしゃいます?
その上で、カンボジア人支援協会を始められたきっかけは何だったのでしょう?

陽子:岐阜県では1,000人弱で、東海3県でも3,000人ぐらいですね。

田中:カンボジア人支援協会を始められたきっかけは何だったんですか?

陽子:私がたまたま入社した繊維会社に在留外国人がたくさん働いていまして、最初は、日用品を買ってあげたりしていたんですが、そうしているうちに悩みを相談されるようになりました。

田中:どんな悩みや相談がありますか?

陽子:私は、おもにカンボジア人技能実習生を支援しているんですが、企業がこの制度をあまり理解していないところがあって、勤怠や賃金などのトラブルがありますね。また、どうしても生活習慣が違うものですから、日本人には普通のことでもあっても、カンボジア人は傷ついたりするんですね。

サン:長時間労働時間で残業代が支払わないケースもあります。

田中:分かりやすくいえば、スポーツとかで激励のつもりでポンと叩くことがあるのですが、それを叱られたと勘違いしてしまうようなことですね。

陽子:日本語がよくわからないので、うまくコミュニケーションできないことが原因だとは思いますが、なかには日本の高度成長期のようなモーレツ社員がいることもあります。

田中:時代錯誤もいいところですね。

陽子:日本では、外国人を一括りにしてしまうところがあって、その多様性みたいなものにもっと理解を深めていただく必要がありますね。

田中:一般社団法人化された転機についてお聞かせください。

陽子:個人でやっていることに限界を感じていまして、以前は、企業に問い合わせをしても門前払いされることがありました。

田中:協会運営は、ご夫婦でされているのですよね。ご主人がカンボジア人なので、相談にこられる方も安心感がありますね。まさに国籍を通じたカンボジア人の気持ちがわかるというか。

サン:ありがとうございます。

陽子:カンボジアでは、個人でも社団でもあまり変わりはありませんが、日本では、社団になったことでいろいろと取り扱いがよくなりましたね。あと、ここのことを皆さんに知ってもらえるようになり、大学生からコンタクトがあったりするようになりました。


JICA中部と共催で、
キャリアアップ大学を開催。

田中:最近、活動がますますアグレッシブになっていますね。カンボジア料理が味わえるお店をオープンされたりとか、カンボジア人技能実習生を対象にキャリアアップ大学を開催されたりとか、カンボジア語(クメール語)講座を開講されたりとか。

陽子:JICA(国際協力機構)中部さんとの共催で、今年の3月から、「在留外国人キャリアアップ大学」を12回シリーズで開催しています。カンボジア人技能実習生の皆さんに、パソコンやOAソフトの基本操作を学んでもらう予定です。

田中:JICAさんなので、青年海外協力隊からのサポートということですよね。

陽子:青年海外協力隊の皆さんがコロナの影響で帰国されていて、日本にいる発展途上国の方を支援されるようになっています。ところが、全国をいろいろと探してみたんだけど、私たちみたいに在留外国人を支援しているところがないみたいで、白羽の矢が立ったというわけです。

田中:それはかなりご準備が大変だったと思います。

陽子:岐阜県のSDGs推進ネットワークのポータルサイトでもお願いしましたが、パソコンやOAソフトなどをご寄付いただける方を探しています。ハードオフのリネットジャパンさんが手を挙げてくださっていますが、まだまだ足りないものが多い状況です。

田中:とりあえず、第1回を終了されたところですが、いかがですか?

サン:こういうものがあれば勉強したいというカンボジア人がいっぱいいますよ

陽子:私は、ここで横のつながりもつくってほしい。キャリアアップしたいというカンボジア人が日本で知り合って、カンボジアに帰った時にグループで起業するとか、そんなことになればいいと思います。

田中:JICAさんからの期待も高いと思います。

陽子:JICAさんでは、昨年から外国人の受け入れにもっと責任を持たなければと動いていらっしゃいますので、現場でどういうことが起きているのか生の声をヒアリングさせてほしいといわれています。

田中:企業と外国人技能実習生とのトラブルを共有するアプリを開発中なのですよね。

陽子:発展途上国の人たちはJICAさんをとても信頼されていて、日本人はみんなJICAさんみたいにやさしいと思って来日されるんですね。ところが、そうでない日本人もたくさんいて、大きなショックを受けることもあると聞いています。JICAさんが日ごろからご尽力されていることが、日本での無分別な対応で台なしになってしまう。本当に悔しいですね。コロナで日本に帰国している青年海外協力隊の皆さんのなかには、せっかく覚えたカンボジア語を忘れたくないということで、自費でレッスンを受けさせてしほしいという方がいらっしゃるくらいなんです。このことをJICAさんにお話して、「カンボジア語講座」も始めさせていただいています。


金城学院大学の大学生たちと、
SDGsで交流が始まった。

田中:金城学院大学の学生交流についてもお聞かせください。これも素晴らしい!

陽子:カンボジアのことを学んでいるゼミの学生さんから、SDGsのアイデアコンテストにエントリーしたので、カンボジア人技能実習生について調べたいと、昨年の夏ごろに連絡をいただきました。
カンボジア人技能実習生に会ったことがないといわれるので、岐阜県のSDGs推進ネットワークの補助金で開催した「在留外国人スキルアップ大学」にカンボジアの民族衣装を着て参加してもらいました。WEB会議システムの接続をお手伝いしていただいたのですが、その時に、カンボジア人技能実習生たちとふれあってもらいました。SDGsアイデアコンテストでは、全国2位になられたと聞いています。

田中:若い人たちがこういうことに関心をもってくれるのはすごくいいことですね。

陽子:カンボジア人技能実習生の皆さんと年齢も近いことですから、同世代で解決していってくれることも大切だと思います。

田中:いろいろな気づきが、お互いにあったとも思います。

陽子:これもコロナの影響なんでしょうが、カンボジアが好きでボランティアしたい人たちは、みんな現地に行ってしまっていたんですね。私も、カンボジアのことをあまり知らなかった人たちの意見を聞けて、とても新鮮でしたよ。

田中:JICA中部 とか金城学院大学とか、本当にいい連携です。これこそ、SDGsだと思いますよ。岐阜県のSDGs推進ネットワークの補助金も上手に活用されていますし。

陽子:自分では、ボランティアをしているという感覚はなくて、同僚のお願いを聞いているだけだったんですね。でも、個人でやれることには限界があって、企業とカンボジア人技能実習生が抱えている問題をたくさんの方に知ってもらうには、自分たちがやっていることをわかりやすく説明する必要があることに気づいたんです。そこにSDGsがあって、みんなで解決していかなければならないことは何なのかをゴールに落とし込んでいくと、すごく明確に伝わるものなんだなと思っています。

田中:まずは、SDGsが何なのかというところを学んで、自分たちの活動をそのゴールに落とし込んでいくなかで、新しい出逢いや気づきがあってと、すごくいい流れだと思います。

陽子:そうですね。金城学院大学の学生さんとも、SDGsがきっかけで知り合うことがでできました。


カンボジア人技能実習生たちを
かわいがってほしい。

田中:最後に今後のビジョンについてお聞かせください。

陽子:これまでと変わらず、カンボジア人技能実習生一人ひとりに、大切に寄り添っていきたいです。私は、「やったー!の連鎖」といっているんですが、このやったー!を広めていけるように、やったー!をつなげていけるようにしたいです。そして、日本とカンボジア両国、全世界の発展に少しでも貢献できればと思います。

田中:素晴らしい。大きな夢があります。

陽子:カンボジア人技能実習生をかわいがってください。

田中:背景や周辺環境を多少無視した発言ではありますが、在留外国人を受け入れている企業にオンラインで集まってもらって、いろいろとコミュニケーションしてもらうのもいいきっかけになるかもしれません。双方の誤解もまだまだ介在しているようにも感じます。まさにこれぞ社会課題でもあるのでより良い方向に発展することを期待しています。サポートできることがあれば、是非声をかけてください。

TOPIC

  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
withコロナ時代を生き抜くための、
オンラインツールの活用などを学ぶ。
岐阜県のSDGs推進ネットワークの補助金を活用して、在留外国人を対象としたスキルアップ大学を開催。日本で働く在留外国人が、withコロナ時代の新しい生活様式に対応できるよう、オンラインツールの活用スキルなどを学んだほか、カンボジア人にコロナ禍での悩みを話してもらい、それに日本人が答える交流会も行った。

Company PROFILE

企業名(団体名) 一般社団法人 カンボジア人支援協会
代表者名 代表理事 スン・陽子
所在地 〒500-8268
岐阜県岐阜市茜部菱野2丁目12番地3

Re:touch Point!

多くの方々に知ってもらいたいことを、世界共通言語であるSDGsで翻訳すると伝わりやすい。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
カンボジア人に限らず、こういった技能実習生が抱えている社会課題は、世界共通言語であるSDGsがなければ、きっと知らないままに留まったことであろう。国際結婚されたご夫婦が、通訳の仕事で得た収入をつぎこんでも価値があることを見出し、そして社会課題の解決に向けたアクションに繋げた行動力に心よりリスペクトしている。
当初、同僚からのお願いを聞いていたことを契機に、1人でも多くの人にこの現状を知ってもらいたいと思った時、解決策としてSDGsが伝えてくれることに気がつき、何よりもカンボジア人技能実習生に対しても誰一人取り残してはいけない。と考えたカンボジア人支援協会の想いはかなり強い。
実際に、ここに記述では示せない事実もまだまだ介在している。単なる社会課題として示せない言葉の壁や、双方の理解が思うように進まないなど未だに苦労は絶えない。
スン・陽子さんは、みんなの想いがかなった時の「やったー!」をつなげていきたいと語る。岐阜発のやったー!の大きな連鎖を、日本中に響かせていただきたい。