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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 17
ここでしかないSDGs、
ローカルならではの
素晴らしさ。

株式会社長瀬土建(岐阜県高山市)

代表取締役 長瀬 雅彦さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
2020年7月、累計雨量が1,400ミリを超える豪雨が高山を襲った。山からの鉄砲水やがけ崩れが国道41号を容赦なく寸断するなか、未曾有の大災害にびくともしなかった道がある。長瀬土建が造るその道は、大雨や台風が来ても壊れないばかりか、「経年美化」といって年々きれいになっていく。Re:touchの新聞記事を見て届いた長瀬社長からのメールが、まさに、どえらい出逢いへとつながった。
しかも、これにはもう一つのドラマがあった。みんなに笑顔でお盆を迎えてほしいという、のべ2,600人の作業員が地域のプライドをかけた復旧工事。国道41号が通れるようになった時、沿道の道の駅には、「災害復旧工事関係のみなさま 昼夜の作業ありがとう」の横断幕が掲げられた。昼夜を徹して働いた作業員と地域住民の気持ちが通じた瞬間だ。今回は、国土交通省でも語り継がれているという、この復旧工事を指揮した一人でもある長瀬社長に話を聞いた。

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社員自らがする「働き方の改革」で、
建設業界では先進的な週休2日を実現。

田中:今回、社長から直々にご連絡をいただきまして、ご自身で自社の広報・PRも積極的にされているのですか?

長瀬:自分の会社のPRというより、業界の底上げをしたというのが一番なのです。自分たちのやってることがあまりにも知られていない。例えば、災害だったら、災害を知る、学ぶ。そして、それを伝える、引き継ぐ。次の世代、自分の業界がどうなっているのか、やっぱり心配なところがあります。

田中:この業界って、本当にきついというイメージをもっていましたが、長瀬写真館で掲出してあった写真の迫力が何よりすべてを物語っています。ここで働くみなさんのイキイキとした表情がカッコいい!働くことの喜びをとても感じました

長瀬:お金を払っているだけではダメなのです。やりがいがあって、休みがないと。それで、週休2日にして、みんな月給にしようと。その代わり、今まで6日間、7日間かかかっていたことを、5日間でやらないといけない。私は働き方改革をするけど、みんなは働き方の改革をしなさいと、「皆で目指す働き方改革宣言」を作りました
1週間を5日で働くようにするため、私は何をするというのを宣言します。そして、無駄の排除。今までどんな無駄があったかを拾いだそうっていうことで、あそこにああやって。

田中:皆さんの業務を見える化していこうということですか?

長瀬:見える化よりももっと大切なことがあります。それは、「言える化」。社長にものがいえるようにならないと。これで、現場がスムーズに進むようになりました。

田中:なるほど、自身が宣言したからには、責任を持たないといけませんし。

長瀬:また、ODSシートというのがあって、これを、現場で、みんなで作ります。どういう目的があって、基準が何で、それに対して自分たちがどうなるんだって。よく見ると、それがすべてSDGsなのですね。

田中:至極、共感します。

長瀬:うちの社員に、「給料だれからもらっている?」って聞くと、社長からとはいいません。私の会社は99.9%公共事業なので、国民の税金を社長が間借りして、それを自分たちがもらっている。だからいい加減な仕事はできないと。

田中:社長ご自身がSDGsと向き合われたのは、まだ、最近のことでしょうか?

長瀬:SDGs宣言をしたのは半年ぐらい前ですね。それまではISOを一生懸命にやっていて、品質、環境、情報セキュリティ、エネルギーマネジメント、森林認証など、審査員の資格も持っていますよ。自分のなかで噛み砕いてから、社員に戻そうという形でやっています。環境のJABアワード第1回表彰って当社ですよ。

田中:はい。これは素晴らしいです。

長瀬土建では、建設業界では浸透していない週休2日制を実現。そのために、自分が何をするのか、どんな無駄があるのかを、社員ごとに掲示する「皆で目指す働き方改革宣言」を行っている。また、休みが増えたことで収入が不安定にならないよう月給制に変更。2020年度、岐阜県ワーク・ライフ・バランス推進エクセレント企業に認定されている。


林業を学ぶには、日本ではなくて、
やっぱりヨーロッパだ。

長瀬:少し変わったところでは、私たちは建設業でありながら林業をやっていることです。高山って93%が森なのです。森を活用しないって手はないと思ったことと、建設業自体の仕事がやっぱり減ってきていて、何かやらなきゃいけないってことで。林業を学ぶには、やっぱり50年、100年進んでいるヨーロッパだって、じゃあ、ヨーロッパで学ぼうと

田中:確かに建設業と林業との親和性は勿論高い。互いの考えや業務にシナジーをもたらせることも可能ですね。

長瀬:林業というのは木材生産だけではなくて、森林には保養機能とか保安機能とかあるじゃないですか。今一番人気なのは、森に入ってトレッキングをしたり、森林浴をしたりすることで、それらが産業になりつつあります。これは、私が10年前に学んでいたことで、ようやく日本でも始まりました。

田中:岐阜県は山国ですからここに課題意識をお持ちになられ、しっかり勉強された社長がいらっしゃると、これからの林業のあり方を問うところまで考えも行動も発展していく可能性を感じます

長瀬:農林水産省と建設トップランナー倶楽部が主催したシンポジウムの資料にある「SDGsに貢献する森林・林業」を作ったのは、私です。

田中:すごい。これも社長が?

長瀬:私たちが、森林や林業を通じてSDGsに取り組むことをまとめています。それと、グリーンインフラですね。今、注目されていますよね。

田中:はい。現在も国交省がかなり注力するようになりプラットフォームもできています。岐阜の林業の課題をどこにおもちでしょうか?

長瀬:ゾーニングといわれる、どこの木を切ってどこの木を触らない、それがまずできない。それと、そこに行くための道がない。みなさん高性能の機械を持っているのですが、森に入っていく道がないのです。あとは、林業は、川上、川中、川下で、産業がわかれているので、木を育てる方、木材で流通をする方、それを使って家を建てる方が連携して、川下から川上へお金を循環させるようなシステムにならないと

田中:水への資源喚起も当然ありますし。結局は、その地域ならではのSDGsを進めていくことこそが、やっぱりこれからの日本経済を支えていく。県単位で地域ならではのキラリと光る点がフォーカスされうまく発信できれば、とても大きなパッションになります。いわゆるローカルSDGsですね


「いなす」という柔軟なレジリエンス、
これが、災害にも求められている。

長瀬:造園家の涌井雅之さんとドイツに一緒に行ったことがあって、以前、「いなしの知恵」という講演を聞いたことがあるのですが、水をここで受け止めるのではなくて、石に当てて逃がしてやれば、水の勢いは弱くなる。これが、「いなす」ということです

田中:いわゆる今でいうレジリエンス(強靭化)ということですね。

長瀬:はい。強靭化なのですが、柔軟なレジリエンス。今、求められるのはそこなのです。災害もそうですし。

田中:とっても重要なことだと思います。特に昨今の自然災害はそのレベルも被害もこれまでの常識を超えた信じられないこと、あり得ないことが起きていて、しっかり手を打っていかないといけない。

長瀬:そうなんですよ。2020年7月に、累計雨量が1,400ミリを超える豪雨が高山を襲った時も、私たちが造った道は1カ所も壊れてないのです。逆に、これまでに集中豪雨があっても台風がきても、道が荒れるどころか年々きれいになっていく。「経年美化」しているのです。

田中:災害といえば、先ほど長瀬写真館で2020年7月の豪雨の復旧工事の写真を拝見いたしましたが、この写真館の掲示はいつからやっていらっしゃるのですか?

長瀬:2年ぐらい前です。日本サッカー協会のリスペクトプロジェクトを参考に、会社の仲間や家族、地域の人に感謝しながら働く「NAGASEリスペクトプロジェクト宣言」をやっていて、そうした想いを長瀬写真館から伝えたいと思っています。

田中:いいですね。まさに互いをリスペクトし、地域の方への強いメッセージにもなっています。復旧工事そのものは、どれぐらいでやり遂げたのですか?

長瀬:7月8日に被災して、国交省からは8月31日までといわれていたのを、8月12日に終えました。お盆には通れるようにしたいという一心で。

田中:社長、簡単におっしゃいますが、それだけのショートターム(短期間)?!本当に大変なことだったのでは?

長瀬:何百台という機械が動いて、のべ2,600人ぐらいの作業員で、24時間ぶっ通しで。

田中:ものすごいマネジメントですね。

長瀬:みんな中小の会社ですけど、自分たちでやろうよって。みんなで力を合わせて。

田中:自分たちの誇りというか、プライドというか。

長瀬:そうなんです。国交省では、今でも伝説になっていますよ。「あっ!あの高山の!」って、必ずいわれるので、あいさつに行くと。

田中:信じられないくらいすごい話ですね。すごいです。そしてそれをやりきってしまうチカラと意志の強さを感じます。

長瀬:私の会社だけでやったと勘違いされてはいけないので、道の駅さんとか銀行さんとか、あと市役所さんとかでも、その時の仲間の写真を掲示しました。メッセージボードを置いておくと、みんなメッセージ書いてくれるんですよ。「ありがとう!」「ありがとう!」って。

田中:本当、泣ける話です。感動します。

長瀬:想いがあって目的が一つになると、人って動くのですよ。本当に動くのですよ。芯から動くのですよ。それは本当に実感しました。

田中:まさに、ザ・リアルSDGs!!!冒頭におっしゃいましたご自分の会社がこうなっていきたいっていうビジョンは、大変な共感を覚えます。


仕事は感謝の気持ちがないと、
やっぱりいいものができない。

長瀬:仕事というのは感謝の気持ちがないと、やっぱりいいものができないと思います。それは、林業から教えてもらいました。林業は何にでも感謝する。山にも感謝。日本の道づくりの神と呼ばれた大橋 慶三郎さんという方がいらっしゃって、山は道を造ってくれとはいっていない。だから、壊れない道を感謝して造らないと、15年ぐらい前に聞きました。その時、鳥肌が立ちましたね。感動して。私たちの業界も、そういう気持ちでものづくりをしないといけないと思いました。それから、林業にぞっこんになったのですね。

田中:「五方良しの精神」という言葉が、SDGs宣言にもあります。これも社長のお考え?

長瀬:買い手良し、売り手良し、作り手良しの3つは、当たり前ですよね。あとの世間良しと将来良しですが、将来が良くなかったら私たちの未来はないので、それは私たちがどう引き継ぐかってことにかかっていると思うのです。きれいな森を見ると、普通の人は、この森はこのまま残しておきたいっていうじゃないですか。でも、私たちは、森というのはそういうものじゃなくて、今ある森を変えていきながら次の世代に引き継ぐことが一番重要なことなのですね。美術館でも博物館でもないので、森は。そうやって変えていく、次につげていくっていうのが、非常に大事なのです。それが、五方精神ですね。

田中:すごく心に響くお話しです。森は生きていますしね。

長瀬:そうなのです。森ほど大きな工場はないです。何でも直していきます、自然の力で

田中:長瀬土建さんは、ご自身の会社のお取り組みをしっかり外部にもアピールもされていて、おそらくそれは社員の皆さまにも確実に響いていることと思います。復旧工事を短期間で成し遂げてしまうパワーと団結力はすごいですし、道の駅に「ありがとう!」という横断幕まで掲出いただいて、地域の人たちが感謝の気持ちを表すなんて、本当にすばらしいです。

長瀬:すごいですよね。地域の人が何かお返ししなければと思われたのでしょうね。一生懸命やっている姿を見て。これこそ本当のパートナーシップだと思います。

田中:いやぁ、岐阜には本当にすごい会社、すごい社長がいらっしゃる。今日は、ありがとうございました。

TOPIC

  • 08 働きがいも経済成長も
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
社員の生き生きと働く姿が、
地域との「絆」を深めている。
長瀬土建では、会社の仲間や家族、地域の人たちに感謝しながら働く、「NAGASEリスペクトプロジェクト宣言」を展開。社員が一生懸命に働くようすを撮影し、「長瀬写真館」と題して、作業現場のほか市役所や銀行、駅などに掲出している。林業から教えてもらったという感謝の気持ちを込めたものづくりと、自分たちがやっていることを知ってもらいたいという想いから始まった。間違いなく、長瀬写真館が地域との「絆」を深めている。

Company PROFILE

企業名(団体名) 株式会社長瀬土建
代表者名 代表取締役 長瀬 雅彦
所在地 〒509-3205
岐阜県高山市久々野町久々野1559番地

Re:touch Point!

社員とその家族、そして地域への感謝の気持ちが、ローカルSDGsの原動力に。すごい会社がここにもある!

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
岐阜県が世界に誇れるといっても過言ではない固有の財産である「森」。長瀬土建は、本業の建設業もさることながら、建設業からは珍しい林業へのアプローチがなされ、まさにローカルSDGsを経営の柱にされている。
その底流に活きているのが、長年、取り組んでこられたISO。このマネジメントシステムの導入により業務プロセスにおける仕組みが、仕事を変え、人の意識を変えることを肌で学ばれている。
また、特筆すべきは「皆で目指す働き方改革宣言」や「NAGASEリスペクトプロジェクト宣言」「長瀬写真館」に代表されるアイデアと実行力。そのヒントを、日本サッカー協会に求められている柔軟さもすごい。
いいことはどんどん発信していかないと、という考えには至極共感を覚え、社長自らが広告塔になって建設業界の底上げにご尽力されている姿には、頭が下がる。
岐阜県下にこんな素晴らしく、パワー溢れる企業が存在していることに驚きと、岐阜人としても誇りを感じたほど。間違いなく日本経済を底辺で支えている唯一無二の存在に感謝!Re:touchを介したこのどえらい出逢いに感謝!