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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 16
「共に生きる」ための
課題解決。

NPO法人 人と動物の共生センター(岐阜県岐阜市)

理事長/獣医師 奥田 順之さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康

Re:toucher PROFILE

NPO法人 人と動物の共生センター 理事長/獣医師
奥田 順之(おくだ・よりゆき)さん

岐阜大学獣医学課程卒 岐阜大学在学時、殺処分問題解決を目的とした学生団体ドリームボックスを設立。 ポスターやリーフレットによる啓発活動、小中学校への訪問授業や学校飼育動物研究会の設立、犬猫の譲渡仲介活動、殺処分問題を解決するプランコンテストなど様々な活動を実施。 その実績を評価され、2009年日本学生支援機構優秀学生顕彰《優秀賞》を受賞。
2012年3月NPO法人人と動物の共生センター設立・理事長に就任。同年4月ドッグ&オーナーズスクールONELife開業。2014年4月ぎふ動物行動クリニック開業。2017年獣医行動診療科認定医取得。
著書に「ペット産業CSR白書‐生体販売の社会的責任‐(2018)」、「動物の精神科医が教える 犬の咬みグセ解決塾(2018)」

SDGsターゲット
  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
いまや人口の3割が犬や猫などのペットを飼う時代。しかし一方で、毎年多くの動物が保健所等に収容され、殺処分されているという現状もあり、人と動物とが共生することで、私たちは恩恵を受けるだけでなく、さまざまな社会課題を生み出している一面があることも忘れてはならない。
そんな中、NPO法人人と動物の共生センターは、飼い主へ学びの機会を提供するしつけ教室などの適正飼育普及活動や、ペットが飼えなくなった高齢者に対する後見人サービス、ペットの防災啓発、ペット産業のCSR推進など、幅広い社会課題解決に取り組んでいる。代表を務める奥田順之氏に、取り組みの原動力となっている思いや新たな試みについて伺った。

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動物と生きること。そこから生まれる課題がある。

田中:奥田さんは、学生時代から現在のような取り組みをされてきたと聞きました。その頃は、どんな活動をしていたのですか。

奥田:はい。元は私が学生だった2007年から、犬猫の殺処分問題をどうにかできないかと考え、活動を始めました。もちろん学生なので、そんなに大したことはできませんでしたが、ポスターを作って貼らせてもらったり、高校や中学校を訪問して講演をしたりしながら、今社会にこうした課題があるんだということを発信していました。

田中:そこからどのような経緯で、NPO法人設立に至ったのでしょう。

奥田:活動の中でさまざまな大人との出会いがありまして。大学卒業後はどうやって活動しようと思った時に、NPO法人というものがあることを教えていただきました。卒業後は、今の活動とはまったく違う分野に就職してみたり、動物病院で修業したりもしたのですが、卒業して2年目の2012年に、やっぱりやってみようとNPO法人を立ち上げました。

田中:それはやはり、殺処分問題の解決を目指して、ということですか。

奥田:殺処分問題をはじめ、人と動物が共に生きていく上で起こる課題の解決ですね。例えば、ペットを飼えなくなってしまった人の問題や、劣悪な環境で繁殖させるような適切でないペット産業の問題、野良猫の増加で猫が車に轢かれるロードキルなど、人と動物の間にはさまざまな問題があります。

田中:動物と人が共生することで、暮らしの豊かさや家族の癒しにつながるいい面もありますが、その分、課題もあるということですね。

奥田:現在、人口の3割くらいがペットを飼っているといわれています。3割というと、マイノリティではないですよね。しかし、例えば避難所でペットが受け入れられなかったりする現実もある。もちろん、動物が苦手という方に負担を強いてはいけませんが、だからといって好きで飼っている3割の人を排除してはいけないと思うので、難しい問題だと思います。

田中:それはとても奥が深く、デリケートな話ですね。そのギャップは、簡単に解決できる課題ではないように感じます。

奥田:ペット防災って、飼い主さんの中でも興味がある人もいますが、知らない、準備していないという人も多いんです。そこには、ペットのトリミングサロンさんや動物病院さんも、課題を感じています。そこで、非認知層にも関心を持ってもらえるように、三重大学の「DOT」という学生サークルと協働で「ペット防災カレンダー」を作成しました。

田中:これは飾ってもかわいいし、違和感なく啓発ができるいいツールですね。1年間使い続けられる点もいい。

奥田:チラシなどだと、読んだら一瞬で捨てられてしまいます。捨てられないように、いかに生活へ組み込んでいくかを考えた点が、とても共感を得ていまして、今まで活動を広げられていなかったペットサロンさんなども、このカレンダーを配るだけで活動に参加できます。社会課題に対してアクションを起こすきっかけをお手伝いする、という感じですね。

田中:すでにこのカレンダーは、どのくらい普及しているんですか。

奥田:例えば、愛知県豊山町や静岡県浜松市では、何千点という単位で取引をさせていただいています。正直、このコンセプトを守っていただければ、真似して作っていただいても構わないので、これからも全国にカレンダーが広がるといいですね。

田中:このカレンダーが、ペットを取り巻く課題解決の力の1つになるということですね。

奥田:はい。動物を取り巻く問題の教育や啓発は、人々がそうした問題に関心がないことが一番の課題だと思っています。あらゆる課題に関心を持つのは難しいですが、「ペットと被災したらどうしよう」「うちの避難所はペット可なのか不可なのか」など、身近な社会課題に目を向けることが、社会の持続可能性や未来をしっかりつくっていくために、必要なんじゃないかと思います。

田中:しかし、カレンダーという発想は、あるようでなかったですね。防災といえば、南海トラフ大地震も近く起こるといわれていて、もしもに備えるということは非常に大切。ぜひ広がってほしいですね。


より良いペット産業を増やすために

犬猫の殺処分問題や過剰繁殖問題、ブリーダーなどの劣悪な飼育環境問題、繁殖引退犬の処遇問題など、動物を取り巻くさまざまな課題解決には、人と動物の共生に対する第一の支援者たるペット産業が、重要なカギを握る。そこで、奥田さんが運営するNPO法人人と動物の共生センターでは、ペット産業の自主的な適正化を促すアプローチが必要と考え、ペット産業のCSR推進に注力。ペット産業の社会的責任を考えるシンポジウムの開催や、ペット産業に関する調査研究を行うほか、ペット産業にかかわるステークホルダーとの対話を深めるきっかけづくりとして、提言をとりまとめた『ペット産業CSR白書』を発行した。

田中:このCSR白書は、とても斬新なアクションだと思いますが、そこには相当な想いがあったのではないかと思います。お作りになられた想いからお話しいただけますか。

奥田:ペット産業は生体販売なので、基本的にネガティブなイメージが強いんです。本当は動物を大切にしたいのに、その動物を傷つける結果になっている面もあり、多くの課題はペットショップが元凶であるという意見も少なくありません。それでも、ペット産業を批判するのではなく、共に変わっていく、新たなステージを目指していくというスタンスが大切だと思っている方も多いんですが、やはりそれを行動に移すというのは、これまでなかなか難しいところだったんです。
でも私は、産業の中で自分の専門知識を生かし、前に進めるための助言をしていく、現実的にできる一手を一緒に考えていくことが自分の役割だと思い、業界と対応をしっかり話し合って考える機会として、シンポジウム開催などの活動を続けてきました。

田中:さまざまな見方がある中で、アクションを起こされたことに私も共感しました。実際に活動してみて、フィードバックを得たことはありますか。

奥田:おかげさまで、企業と協働するプロジェクトやしつけに関する監修の依頼も増えてきました。ペット産業の企業も、批判されるのではないかという保守的な姿勢から、これは挑戦なんだという前向きな姿勢に変わる場面を見ることがあり、意味のあることだと感じています。

田中:現在は、新たな変化を感じているとか。

奥田:現在、人と動物が共に暮らす社会をつくっていくにあたり、私を含めて動物愛護や動物福祉、共生に関して造詣が深い6人の専門家が参加し、1歩ずつ課題改善を目指すアドバイザリーボードが設置されました。アドバイザーみんなで意見を出し合って、企業ができること、持続可能なことを一緒に考えていくという取り組みです。毎回、会議の内容は議事録として取りまとめて公開し、透明性にもこだわっています。社会にはこうした課題があって、我々は前向きに議論していることを発信しようとしているんです。

田中:それは素晴らしい。本当にさまざまな見方があるからこそ、グレーゾーンに踏み込めないという背景がある中で、奥田さんは以前から、グレーな部分を開示して透明性を担保していらっしゃって、その点にはとても共感できます。批判を含めて社会の声をしっかりと聴きながら、中立公正な立場の方々が集まって協議するというのは、本当にすごく楽しみですね。

奥田:社会の後押しがあってこそ、やはり企業も責任を果たそうという意識が高くなります。その責任とは何なのか、それをどう具現化すればいいのかということを、しっかり時間を割いて考える企業も増えていて、それがカタチとなったいい取り組みの1つだと思います。


人と活動をつなげて広げる、新たな学びの場を

田中:奥田さんの多様な取り組みには強い使命感を感じますが、奥田さんを揺り動かしているもの、大切にしていることは何なのでしょうか。

奥田:使命感というよりは、必要だからとか、生きるって何なのかという思いに通ずるところはあると思います。私も獣医の大学を出させてもらい、活動もその時に始めましたが、その頃から多くの方々に応援していただき、NPO法人設立の経緯も含めて恵まれている部分は多いと思うんです。その恵まれたところをいただいた者として、やはりそれを社会の中でどう生かしていくかが、責任になる気がします。さまざまな思いを背負っているので、当然途中では投げ出せないし、応援いただいている以上やるべきことはやらないと、お天道様に顔向けできないというところはありますね。

田中:今でもご苦労や解決できない課題を抱えながら活動していらっしゃると思いますが、この先にどういった未来を描いていらっしゃるのか、教えていただけないでしょうか。

奥田:今後は、「人と動物の共生大学」というオンライン市民大学を始めようと思っています。例えば、高齢者のペット飼育をどうするかというペット後見のような問題など、山積される課題に対して、我々の組織できることといったら、地元で起こっている一部の問題解決でしかありません。でも、そういう活動をやってみたいと思っている人たちは、全国にたくさんいらっしゃって、その人たちと共に学び合う場が必要じゃないかと考えました。それぞれができる活動を進めていらっしゃる中で、情報を共有してお互いを刺激し合うことで、加速できることも多いと思うんです。全国で「自分がこの地域の問題をどうにかしたい!」と思っている人たちが、オンラインでつながり合って、一緒に考えて実行していく。そうしたコミュニティを創っていきたいと思っています。

田中:それはいつからスタートされたんですか。

奥田:実は2019年4月にスタートし、今、さまざまな取り組みを形にしながら、2022年4月に本オープンする予定です。

田中:この取り組みを通じて、いろいろな活動がつながっていきそうですね。

奥田:例えばペット防災に関しても、私たちは全国に先駆けて、動物避難所の設置に取り組んでいます。現在、最大40頭の犬を収容できる避難所(動物だけを預かる避難所)を開設しているんですが、結局それは、私たちだけがやっていても仕方がない。私たちはあくまでもモデルケースとしてやっているのであって、それを全国に広めていかなければいけません。現在は、全動物避難所マップというウェブサイトをつくって登録者を募っているのですが、私たちがこの分野の中間支援組織となって、この取り組みを横展開していくことがこれからの課題だと思っています。

田中:奥田さんにはこれまで活動してこられたからこそのノウハウが蓄積されていると思いますし、前述の防災カレンダーなども含めて、広く浸透していくといいですね。

奥田:それこそ、カレンダーをテーマにしたゼミのような感じで、いろいろな人とカレンダーをどう配るべきか月1回程度ディスカッションしながら、カレンダーをつくるのもいいですね。最終的にみんなで配布するとか。

田中:ペットに関する問題は、非常に私たちの身近な課題。持続可能な共生という点では、SDGsそのものです。特にペットというのは、万国共通で多くの人に関係することなので、SDGsの入口としては入りやすいと思います

奥田:企業さんなら、ペットの避難所に場所を提供するだけでも、SDGsの取り組みになります。これも結局きっかけなんです。何か未来のために、社会のためにやりたいという人は、おそらくたくさんいらっしゃって、誰かが一歩踏み出そうという時に、私たちは動物という分野踏み出しやすくなるコンテンツづくりをしっかりやらなければいけないと思っています。共生大学もそうですが、自分も課題を担う一人として、入り込んで考えていく場ができると、社会は成長していくんじゃないかなと思いますね。

TOPIC

  • 03 すべての人に健康と福祉を
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
ペット産業CSR白書
ペット産業のCSRという概念を普及し、企業による健全な自浄作用を促進することで、ペット産業の課題解決や人と動物が共生する地域社会の実現を目指し、ペット産業のCSRに関する基礎的な情報を発信する『ペット産業CSR白書』を発行。「産業を変えていかなければならない」という危機感を強く持っているペット業界内外の人々が、業界の課題やあるべき姿について対話や提言の姿勢を持てるよう、広い視点を提供している。

Company PROFILE

企業名(団体名) NPO法人 人と動物の共生センター
代表者名 理事長/獣医師 奥田 順之
所在地 〒500-8225 岐阜市岩地二丁目4-3

Re:touch Point!

強く浮き上がったのは、未来を変えるという「覚悟」

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
社会課題というのは、実にさまざまな見方ができる多面性を持っており、中には、多数の賛否が複雑に絡み合い、長きにわたってタブーとされてきたものもある。奥田さんがチャレンジしている動物と人との共生から生じる社会課題も、そうした一面があるものだ。
しかし奥田さんは、グレーだった部分をしっかりと開示し、批判も含めた声に耳を傾けて真摯に向き合い、クリアに、そしてオープンにすることで、未来への変化を訴えている。そこには、強い使命感とともに1つの覚悟が表れていると感じた。
さらに、現在新たに着手している試みによって、活動は深みも広がりも増していくだろう。常に先陣を切って手つかずの課題に挑んでいく奥田さんに、期待は膨らむばかりだ。