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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 05
14歳の起業家たち
リアルな金融・経済活動で身につける
「生きる力」

大垣市立南中学校(岐阜県大垣市)

西田 耕介教諭 [写真上段:左端]
黒田 千恵教諭 [写真上段左より2番目]
生徒のみなさん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康 [写真上段:右端]
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 12 つくる責任 つかう責任
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
コロナ禍の2020年、全国の小中学校、高校は一斉休校を要請され、学校生活は変更を余儀なくされた。しかし、だからこそ踏み出せた子どもたちへの実践的な教育の場が大垣市立南中学校にはあった。在席する100人の中学2年生が会社を設立し、Tシャツを販売、約138万円を売り上げた。ここで生徒たちが学んだのは、「社会生活」と「生きる力」。職業体験の枠を超えた学びの全容を担当教諭と生徒たちに伺った。

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コロナ禍が実現した「お金を稼ぐ」授業

田中:今回の取り組みを知ったとき、僕は驚きを持つとともに非常に感動しました。生徒さんたち、一人一人が株式を発行して起業に必要なお金を集め、会社を設立して、Tシャツを売る、という金融・経済活動を行いました。僕は、証券会社に勤めていたころ子どもたちへの金融・経済教育も行っていたのですが、リアルなお金を用いて「稼ぐ」この取り組みは、なかなかできることではありません。どのような経緯で実現することができたのですか?

西田耕介 教諭(以下、西田教諭):カリキュラムの中に「総合的な学習」の一つとして「職場体験」があるのですが、2020年は新型コロナウイルス感染症の影響で実施を見送らざる追えませんでした。しかし生徒たちからは、職場体験に代わる何かをしたいという思いが話にのぼっていましたので、学年主任である私は、生徒がTシャツ販売を一から取り組む「キャリア学習」の実施を学年会議に提案しました。2年生を受け持つ先生方から教育的な効果があると賛同してもらえました。

田中:生徒が金銭の授受を行うことに対しては、さまざまな受け取り方がありますので、そこをよく踏み切ることができましたね。

西田教諭:校長、教頭にまず呼び出されました。(笑)ですが、教育的な意義について理解いただき、赤字にならない販売数を設定して実施すればよいと後押ししてもらいました。

田中:実施の決定までわりとスムーズに進んだのですか。

西田教諭:いえいえ、当初はPTAの皆さんからのご意見も含めいろいろな声がありました。「ぜひやらせるべきだ」「本当の職場体験になる」などの声がある一方、「お金を使うのは危険ではないか」「やったふりの疑似体験でいいのでは」など両方の意見がでました。結局、100人の生徒たちが1枚ずつ購入することを前提に、赤字にはならない枚数と金額を設定しスタートすることにしました。

大垣市立南中学校2年生のキャリア学習「戦国武将Tシャツ販売」
2020年
6月
  • 会社設立
  • 株式発行
  • 100人の生徒が各々社長となり100の会社を設立、さらに親会社をつくり4名の生徒が社長を兼
  • 各社は、社長自らのこづかいのほか、保護者、PTA、教員から出資を募り資金を調達 
  • 市場調査
  • 武将をデザインしたTシャツを売るにあたり必要な情報を得るため市場調査を実施
  • 調査項目(図柄、色、価格など)は生徒による話し合いで決定
  • 2年生全員が市内3カ所でアンケート調査を行い、約1,000人から回答を得る
7月
  • Tシャツの
    企画・製造
  • 市場調査で人気の高かった織田信長を図柄に決定し、デザイン案を一人一つ 作成、美術教諭やデザインの専門家からのアドバイスも参考にデザインを決定
  • 市内のTシャツ製造会社に発注
  • 宣伝活動
  • 商品を売るための活動として、新聞、ケーブルテレビ、フリーペーパーの取材を受ける
9月~11月
  • 販売
  • 各社が個々に営業し販売を行うほか、親会社は3日にわたり複数の地元商業施設にスペースを設け、2年生全員が参加し販売を展開
12月
  • 決算
  • 必要経費の精算、出資者への配当などを行うとともに、利益の一部を寄付
  • 在庫処分については現物を寄付へ
  • 決算報告書を作成

何もかも初めてづくしの14歳の起業家たち

田中:田中:生徒の皆さんは、職場体験に代わるものとして何かやりたいと思っていたということだけど、実際にお金を使って会社を設立し、Tシャツを売る、と聞いたときはどう思いました?

中村心季(以下、中村):正直、「何言ってるの?」と思いました。(笑)総合学習の授業のとき、教室に入ってくるなり「Tシャツ売ります」と西田先生が言ったので、「えっ?」って思ったし、「売ってどうするんだろう」と。

高井萌衣(以下、高井):聞いたときは冗談だと思いました。西田先生は、すごく冗談を言う先生なんです。(笑)だから全然、本気にしませんでしたが、次の授業のとき、プリントが配布されて…。「何しようとしてるんだろう」と、学年のみんながそう思っていました。

水野陽喜(以下、水野):僕は、できあがったTシャツを見るまで「本当に販売するの?」と思っていました。「西田先生がまた冗談言うとるんじゃないか」という話も生徒の間で回っていました。(笑)

田中:みんな最初は、冗談だと思っていたんだ。(笑)そんな生徒たちに、どう指導していったのですか?

黒田千恵 教諭(以下、黒田教諭):「Tシャツを売るためにはもとになる資金がないとTシャツはつくれないよね?」というところから入りました。株の仕組みは3年生で学ぶため、生徒たちは何の知識もない中での出発でした。資金調達のあとは、実際どのようなTシャツなら売れるのかリサーチするために、生徒が調査項目を検討し、大垣駅前や大垣城公園などで道行く市民の方々に声をかけアンケート調査をしました。

田中:みんな、最初の一言を声がけするのは大変だったんじゃないですか?

内藤啓介(以下、内藤):しゃべりかけるのに勇気がいるような人はいましたけど、話してみると皆さん優しく対応してくれました。

高井:断られたときは「あぁ…」って落胆しましたが、協力してくださったときの達成感はすごいものがあって、これは学年のみんなも言っていました。

水野:内容を説明するのが難しくて、僕も断られたことがありました。いままで見ていたティッシュ配りも簡単じゃないことがわかって、社会の難しさを知った気がしました。それと市場調査を初めてしたことで、販売する前の作業が大きな柱になることがわかりました。

田中:物を買う行為はしてきたと思うけど、その前に市場調査があることを知る機会になかったんだね。とても良い経験になったと思います。

黒田教諭:生徒は、最初こそ躊躇していましたが、一人に答えていただけると自信がついたようで、2年生全員が調査の回答を得ることができました。ほんとうにたくさんの市民の皆さんにご協力いただきました。

生徒たちは、市場調査をもとにTシャツに描く武将の選定やTシャツの色、サイズ、価格などを決定。市民から人気が高かった武将、織田信長を図柄に採用し、デザインは、生徒一人一人が提案、デザイン案を絞り込み組みあわえるなどして、最終決定していった。
資金調達から始まり、町での市場調査など、保護者や市民を巻き込んだ「キャリア学習」は、学校外にも知られることとなり、新聞社や地元ケーブルテレビ、フリーペーパーなど、マスコミからの取材に発展した。

河合悠宇(以下、河合):市内の商業施設で販売したときに、新聞を見たと言って買いに来てくれた人が多くいました。

黒田教諭:商品を売るためには宣伝活動が欠かせませんので、取材を活用して宣伝活動を行ったのです。実際、新聞、ケーブルテレビ、フリーペーパーなどを見て非常に多くの方々が足を運んでくださったので、宣伝活動の重要性を生徒たちも肌で感じたと思います。また、販売促進活動も行いました。市場調査でいただいた、生徒がTシャツを着用して売るといいのではないか、という意見を活用したり、チラシやPOPをつくったり、“生徒たち全員が自分たちでさまざまな売れる工夫を実践”していました。 Tシャツの販売数は当初、赤字にならない150枚程度を予定していたのですが、最終的には886枚を売り上げ、ほんとうに多くの方々に買っていただきました。

西田教諭:ある生徒の会社では、30枚ものTシャツを売り上げました。

田中:それはすごい!

西田 耕介 教諭
黒田 千恵 教諭
河合 悠宇
中村 心季
高井 萌衣
水野 陽喜
水谷 理乃
内藤 啓介

物を売ることで芽生えた「自分たちにできること」

田中:こうした成果は、皆さんの努力による活動のたまものだと思うのだけれど、実際に物を売ってみるという体験はどうでしたか?

水谷理乃(以下、水谷):商業施設での販売は、9月、10月、11月に行ったんですが、11月にTシャツを売るのはとても大変で、なかなか売れなくて、みんな心が折れそうでした。通りがかりの人たちにチラシを渡して、なんとか足を止めてもらうようにしました。みんなでめげずにがんばれたのは、自分の力を強くできたからだと思います。最初は、「売れるの??」という感じで始めましたが、たくさん売れてほんとうによかったです。

内藤:僕も「売れるのか?」と思っていましたが、やっていて楽しかったし、話しかけると答えてくれる人がいる、というのが売っていて良かったな、と感じたところです。

河合:売る前は、残ったらどうするんだろう、先生の私物になっちゃうのか?自分たちで買うのか?なんて心配をしました。でも市場調査のときも販売のときもみんなが心優しく対応してくれて、楽しくできました。

田中:いま売れ残りの話が出たけれど、残ったTシャツは、学年取締役会で話し合い、被災地に寄付されたんですよね。それともうひとつ、利益の一部を大垣市民病院に寄付したと聞きました。まず、皆さんに聞きたいのは、稼いだお金を寄付しようというアイデアはどこから生まれたのですか?

中村:コロナの拡大で職場体験がなくなってしまったから、こういう良い体験ができて、一方で、病院は毎日、毎日、感染者の対応で大変な思いをしていて、だから何か自分たちにできることはないかとみんな思っていました。市場調査をしたときも利益を寄付したらいいんじゃないかと、という声もいただいていましたし。 個人的には、市民病院に寄付できることが決まったとき、「あっ、この活動がんばろう」って自分の中で一番のモチベーションになりました。

田中:そうだったんだね。では、被災地にTシャツを寄付するというのは?

中村:これもみんなで決めました。売れ残ったのは残念ですが、自分たちが一からつくりあげたものが誰かのためになるって考えると幸せな気持ちになります。病院への寄付と同じで、困っている人に手を差し伸べられる、自分たちにできることがたくさんあるってすごく良いことだと思いました。

田中:皆さんの行動や思いにはほんとうに感動します。いま、世の中は、これまで起きなかったことが起こる時代になって、皆さんは将来に不安を持つことがあると思います。だからこそ、世の中をこうしたい、会社をこうしたいという思いを持つことがとても大切です。なぜなら思いは人の心を打つからです。今回、みんなも思いを持って一生懸命活動したことが、ご両親や市民の皆さんに伝わって、Tシャツを買うという行動になったのだと思います。こうして人と人の繋がりがより強くなっていく、コロナ禍でこのような経験ができたことは皆さんの財産になると思います。

学んだのは「生きる力」

田中:結果的にとても多くの金額を売り上げたわけだけど、このお金をどうするんだろう、自分たちでもらえるの?と思わなかった?(笑)

一同:(笑)

黒田教諭:生徒からは、もらってもいいんじゃないかという意見もありました。(笑)

一同:(大笑)

黒田教諭:もちろんそれだけではなく、Tシャツをつくってもらったのにお金を払っていないとか、販売に使った費用があるとか、出資者への配当、売ってきた自分たちへの分配など、出さなければならないお金がある、という意見が生徒からでました。そこで決算報告書をつくり生徒たちにお金の計算をする意味を教えました。販売するには、お金がかかり、多くの人や企業に支えてもらうことが必要ですし、会社は株主に事業や業績の報告をしなければなりません。こうしたことを生徒は数字を通して実感できたのではないかと思います。

高井:最初は「なんだそれ?」と思っていた株式会社の株は、こういうものなんだとわかり、この学習を通して一番学んだことでした。株を買ってくれた人たちに配当金を渡すときも手紙を添えたり、販売活動の写真を同封したりして、お金を出してくれた人や買ってくれたお客さまのことを思い、最後までしっかりやり遂げるのが会社なんだ、と思いました。そういうことはやってみないと絶対にわからなかったです。

田中:みんなにとって初めてのことばかりだったと思いますが、この活動でどんなことを感じましたか。

水野:例年ならお金とは関わることのない職場体験になっていたはずだけれど、僕らは学年全員でTシャツを売るという1つの目標に向かって、お金との関りの難しさも知り、それでも全員で成し遂げた達成感というのを一番感じています。

高井:Tシャツを売る場所を無料で提供してもらうことなど、私たちの活動に協力してくれた、受け入れてくれた環境に感謝しています。Tシャツを売るまでの背景に何があるのかやお金の大切さなど、たくさんのことを学ばせていただいて、いままでにない経験をしました。

内藤:先生や親たちの協力がなかったら会社をつくることもできなかったし、買ってくれた人のおかげで売り上げもあがりました。とても良い経験になったと思います。

水谷:地域のたくさんの方に支援していただいて愛情を感じられたし、人と接することで相手の心がわかったり、共感できたりして、コロナ禍で多くの人との交流は財産になりました。

中村:支えてくれた人たちや仲間がいなかったら絶対できなかったこともあったので、感謝の気持ちを持つことや仲間がいることの大切さを一番学びました。

河合:難しいこともあったけど、最終的に楽しく終われてよかったです。

田中:僕がいま聞いていていいなと感じたのは、感謝の気持ちを持っていることと仲間で成し得た実感があるということ、これは人の生きる力の基本だと思うから。一般的に考えるとなかなかやらせてもらえないことで、こういう機会はめったにない。こんなことしていいの?って思うこともあったと思うけれど、ここで学んだことは間違いなくみんなの今後に生きると思います。

黒田教諭:実は、この学習の前後で生徒たちにアンケートを実施しました。当初はお金を稼ぐことについてあまり良いイメージを持っていない子どもが多かったのですが、振り返りのアンケートを実施したところ、自分たちががんばった証として給料がもらえる、という前向きな捉え方に意識が変化していました。現金を扱ったことで、お金をいただく、お金を支払う、お金を大切にすることを学び、大きな成長につながったのではないかと思います。

田中:日本では、お金を「稼ぐ」ことは「汚い」といったイメージがなかなか払しょくできませんが、生活に必要な行為であることを子どもたちがリアルに知ることは、いまの社会においてやっておかなければならない重要なことですよね。

それを教育の場で行うのはハードルが高かったと思いますから、先生方にとっても貴重な機会になったのではないですか?

黒田教諭:私は教諭1年目ということもあり、学校教育は学校で行う意識だったのですが、地域に出て生徒たちが皆さんに支えられ、交流していきながら活動する姿を見て、学びはどこからでも得られることを実感しました。教育は教室やグランドだけで完結するのではないと考えられるようになり視野が広がりました。

西田教諭:今回の学習をマスコミに取材していただいたことで、広く認知され反響も大きく、良い取り組みだったのだと認識できました。実際、市民の皆さんがTシャツを購入してくださったことからもわかります。また、このインタビューは、やったことを振り返り、その意味を考える機会にもなりました。

田中:こうした取り組みは、積極的に発信していくべきだと思いますし、微力ながらもそのお手伝いをしたいと考えています。この教育の場が、さらに進化していくことを応援したいですし、生徒の皆さんが社会に出たとき、何らかのご縁がまた生まれることを期待したいと思います。本日は皆さん、ありがとございました。(了)

TOPIC

  • 04 質の高い教育をみんなに
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
他授業も生かして名刺やのぼりを作成
「自分たちがこれまで学んだ技術を生かせて良かったな、って思いました」(水谷)
今回の学習は、他分野の学習との連携も試みている。技術系の授業では、パソコンを使ったプログラミングの学習が行われていることから、生徒たちは個々で自分の名刺を作成し、100社100様の個性あふれる名刺を持って、事業活動を行った。また、商業施設での販売スペースに目印として設置したのぼりも家庭科の授業で制作したものである。

PROFILE

学校名 大垣市立南中学校
所在地 〒503-0864 岐阜県大垣市南頬町4丁目141

Re:touch Point!

まさに質の高い教育の実践。企画立案からマーケティング、そして株式発行による会社設立とリアルなキャリア学習がそこにはあった。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
コロナ禍で不確実性がさらに高まる中、教育においても新たな変革が問われている。
今回のキャリア学習は生徒、そして先生にとっても初めてのことで、さまざまな声があったとのことだが、プロセスの過程で生徒の気持ちに変化が生まれ、最終的には寄付にもつながったという。生徒たち自身が考え、行動する、アントレプレナー精神を養う、非常に有意義な体験学習だったのは言うまでもない。
今回の授業を通して経験した知見を、ぜひ次に生かしていただきたい。