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Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 03
一片の木材も無駄にしない。

ヤマムログループ(滋賀県米原市)

山室木材工業株式会社 代表取締役社長 山室 弘樹さん[写真右]
株式会社サンファミリー 常務取締役 土田 博士さん[写真左]
インタビュアー Re:touch エグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 04 質の高い教育をみんなに
  • 05 ジェンダー平等を実現しよう
  • 07 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 09 産業と技術革新の基盤をつくろう
  • 11 住み続けられるまちづくりを
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 15 陸の豊かさも守ろう
  • 17 パートナーシップで目標を達成しよう
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
滋賀県の北東部に位置する米原市。眼下に琵琶湖を望み、日本百名山の一つである伊吹山の麓に、1980年代からサステナビリティに関する積極的な取り組みを行っている「山室木材工業株式会社」がある。
現在「ヤマムログループ」として、創業当初からの事業である木製パレットの製造・販売のほか、人材派遣事業、エネルギー事業、さらには洋菓子の製造・販売まで手掛けているユニークな企業だ。
木材製品の製造からはじまった会社が、なぜ洋菓子にまで事業を広げることになったのか?そこには創業から続く、壮大なストーリーがあった。

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一つのストーリーで、全てが繋がっている

田中:元々は輸送用の木製パレットや梱包材を扱う会社であったそうですね。それが今ではエネルギー事業や、お菓子の製造販売まで手がけられていると聞いて驚いています。このような多角的な事業を展開されるようになった経緯をお聞かせください。

山室:山室木材工業は、私の祖父と父が1967年に創業しました。木製パレットの製造販売から事業をスタートさせ、現在では国内最大規模の生産量を誇る木材パレットメーカーとなっています。そんな私たちが木材リサイクルに取り組むようになったのは、1984年頃のことです。「パレットがいらなくなった」「パレットが壊れて困っている」というお客さまからのご相談がきっかけでした。「それならうちで回収してリサイクルしよう」と、パレットの回収だけでなく、産業廃棄物の処理として家の解体材も一緒に回収を始めたのです。

田中:お客さまの課題解決がきっかけだったのですね。回収作業は順調に推移していったのでしょうか。

山室:始めた当初は回収木材の8割が、製紙のマテリアルリサイクルにも活用できる良い材料だったのですが、時代が進むにつれ、新建材や合板など、接着剤などが含まれた材料を使っている家が増えてきました。こうなると製紙用の材料としての活用ができず、燃料用のサーマルリサイクルしか用途がありません。何とか活用方法を模索していた時、先代社長である私の父が「発電事業ができないだろうか」と言い出したのです。ちょうど実証実験としてパレットの製造工程の一つである熱処理のエネルギー源を、灯油からバイオマスに切り替える取り組みを進めていた頃です。結局、その時は採算が合わず事業化は一旦断念したのですが、その後東日本大震災を契機に再生可能エネルギーへの関心が高まるなど、国内全体でエネルギーに対する関心が高まってきたこともあり、2012年に「いぶきグリーンエナジー株式会社」を設立。ようやく事業として確立させることができました。

田中:まさに「一片の木材も無駄にしない」という理念を具現化させていくことで、木材事業からエネルギー事業へと拡がっていったのですね。

山室:またヤマムログループでは人材派遣事業もありますが、これも木材事業からの流れです。当時木材事業は人材不足で、従業員を集めるのに大変苦労していました。ある時、知り合いの方から外国人労働雇用について勧めていただき、採用してみると実によく働いてくれました。するとお客さまから「山室木材工業は他に比べて納期が短い。一度工場を見学させてほしい」というご要望をいただきました。そして実際に工場をご見学いただくと、そこで外国人の方がたくさん働いているのをご覧になって、とても感銘を受けられたようです。「こんなによく働いてくれるなら、ぜひ紹介してほしい」とおっしゃられました。それが人材派遣会社「サンファミリー」を立ち上げるきっかけとなりました。
また、エネルギー事業では、現在バイオマスだけでなく姉川の水力発電事業にも取り組んでいますが、これはイビデンエンジニアリング株式会社の協力無しには成し得なかったことです。これも実は人材派遣業を通じて得たつながりによって実現したものです。

田中:それはまさにご縁ですね。グループの中に人材派遣会社があることで、いろんな考え方、アイデアが出やすい環境になってきているのでしょうか。ビジネスモデルとしてすごくユニークだと思います。

土田:一見全く関係のなさそうな事業ですが、実は一つのストーリーで全てが繋がっているんですよ。
でも最初から大きいことを目指すのではなくて、小さいところから始めるようにしています。

山室:大企業の場合、地域調査どうしよう、本当に儲かるのか?といろいろ検討されるのでしょうが、僕らは「まず、やってみようか」「ああ、大変やな」くらいの感じで取り組んでいます。「お客様の声にスピードとスマイルでお応えできるグループを目指します」というグループ理念の実践です。思いつき三昧ともいえますが(笑)。

田中:そのお考えには同感します。スピード感は重要ですよね。でも事業として成立させていくのは難しいと思いますが、もしかしたら運もあるのでしょうか。

山室:当然あると思いますよ。でも、運を掴もうと思ったら手を突っ込まないと。かつて上司に「手を突っ込まんやつはいつまでたっても成長せん」という言葉をいただき、僕も代表もそれを実践しようと心がけています。

山室木材工業株式会社の「木くずリサイクルシステム」

SDGsを通じて、自分たちが取り組んでいることの意義を理解する

木材を無駄にしない、という思いから拡がったヤマムログループ。それはビジネスが拡大した今も変わらない。ヤマムログループが展開する事業は、常に地域社会への貢献、人や地球への配慮という視点が判断基準となっている。2019年10月にはグループとしてSDGs宣言を発表した。

田中:ヤマムログループのSDGs宣言では「グループのシナジー効果を最大限に活かし」とありますが、まさにそれを実践されていることがわかります。

土田:去年、代表から「SDGsをやっていこう」と社員に発信してキックオフを行いました。最初は役員向けにレクチャーを実施し、今年から社員向けの教育を進めています。まず「ヤマムログループはこんなことをやっているんだ」と理解してもらうことから始めているところです。

山室:最初から数値目標を設定してしまうと重く捉えてしまうので、当社はきちんとできていて、かつちゃんとビジネスにもなっているということを、社員にきちんと意識づけすることからやっていきたいと思っています。

田中:確かにそうですね。今後は小さな数値目標を立てて、それを達成することで経済が循環して、このような成果が生まれた、ということが見える化できるといいですね。

土田:人材派遣業ではSDGsのゴール1「貧困をなくそう」への貢献がその一つです。いろいろな国の方々を受け入れて、働いていただくことで貧困をなくし、また人口減少が進む地域を維持するためにも、ヤマムログループとしていろいろな会社を作って、地域の方を雇用する、地域を活性化する、雇用機会をつくる、貧困をなくす、過疎化を減らすことを目指しています。

山室:外国人労働者を雇用すると、今度は彼らの子どもたちの就学機会も問題となってきます。そこで社内にブラジル人学校を設立しました。実は日本の学校を卒業してもブラジルに帰るとそれが認められず、向こうでまた最初からやり直すことになるので、そうならないように、ブラジルの制度の認可を受けた学校を運営しているのです。結果的にSDGsのゴール4への貢献となっています。

田中:外国人労働者に関しては強制労働が特に社会問題になっていますが、日本人には人権問題や外国人問題はあまりピンとこないですよね。でも外国人にとっては切実、深刻な問題です。ジェンダーの問題も、グローバルではない企業とは認識の違いが大きくあると感じます。

土田:確かに日本国内でも、一部で外国人労働者に対する人権問題が社会的な課題となっておりますが、そういった先進国も含めた社会全体が抱えている課題を解決することが、SDGsの目標であり、ヤマムログループの使命であると考えております。

山室:外国人も日本人も同じ人間です。個人の差はあっても、国での差はないと思っています。あくまでも人間対人間。外国人の方も永住権を取って、家庭を持って、住宅ローンを組んで家を建てて、それぞれお子さんがいて、というような悩みも同じようなものを抱えているんです。外国人だからこうしないといけない、という意識はヤマムログループでは少ないと思います。みんな一緒の社員。そういう気持ちでないと長続きしないですね。

土田:日本はどんどん少子高齢化で人手が足りなくなって、もっともっと海外の人材の受け入れが必要になってくると思います。人材戦略はもっと危機感を持って取り組んでいくべきと思っています。

田中:その意味ではゴール10にもしっかり対応できているわけですね。敬服します。まずはこちらの姿勢や視点を変え、分かり合えるところからスタートしないといけないですね。また滋賀県は従来より環境意識が高いですし、三日月知事自らがSDGsを強く推進されています。

土田:我々のバイオマスと水力の電力で、米原市の一般家庭のおよそ4分の3近くの電力が供給できています。次の目標はエネルギー事業をさらに拡大し、グループ全体で地場の電力をまかなえる規模のエネルギーを供給することです。

山室:三日月知事が去年から「山の健康」ということをいたる所で訴え始めていて、我々も事業でご協力できないかと思っていろいろ提案させていただいています。また自然災害が頻発しているなか、災害時にいかに地域に還元できるかが今後の課題であると考えています。電力供給会社として、電力の安定供給はもちろんですが、米原市とはそれ以外にも、弊社の工場内に災害時の保存食を備蓄、災害木の無償引き取りなどを含めた協定を結んでいます。2年前に米原のすぐそこで竜巻が起こった時には、うちから重機を持って行って、解体作業などのお手伝いをさせてもらった。その辺では連携が取れていると考えています。

本社隣には、サッカーグラウンド「イブキサッカースタジアム」が併設されており社員はもちろん、週末には地域のコミュティの場として、多くの方に利用されている。
驚きは、敷地内にあるポニー牧場。社員の癒しになっている。

第4、第5の柱を模索するため、変化に柔軟でありたい

田中:現在の課題は何でしょうか?

山室:直近では、コロナ前の水準にどう戻すかですが、既存のビジネスで戻すのは難しいと思うので、新しい収益を考えないといけないですね。今はエネルギー事業が第三の柱になっているので、次の新しい柱を模索しているところです。グループ内の営業担当者同士の交流、情報交換をする機会も増えてきました。なので、将来的には営業部は一体にしてもいいかなと考えています。

土田:ベースとなる木材の販売網、人材派遣の販売網など各事業で培ったネットワークを活用することで、新たな取引ができればと思っています。老舗企業は一つのことにこだわり続けるのも大事ですが、日々変化する環境の中で生き残るためには、その環境に合わせて柔軟に対応し続けることが大切だと考えています。

田中:一つのビジネスから切りひらいていった循環型ビジネスのスタイルが考え方にも繋がっているのですね。営業部の統合といった思考の変化が出てくるのは理想的です。貴社はたくさんのチャネルを持っているので、それらを有機的に繋げるアイデアを持っている人への期待は高いと思います。今後の取り組みに期待しています。(了)

TOPIC

  • 07 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 08 働きがいも経済成長も
  • 12 つくる責任 つかう責任
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
滋賀県でマンゴー栽培?
バイオマスボイラーを活用した農園業事業
ヤマムログループでは農園業事業も手掛けている。ここで栽培されるのはなんとマンゴー。本来温暖な気候で育つマンゴーだが、バイオマスボイラーを使って温暖な環境をつくることで、その栽培を可能としている。さらに収穫されたマンゴーを使ったスイーツショップがあれば面白い、というアイデアでスイーツ&カフェショップDragee(ドラジェ)を設立。ここでもやはり全てが1つに繋がっているのだ。

高さがあり熱がこもりにくく、ハウス自体が熱を持たないため、様々な作物の栽培に適した作りになっている。

Company PROFILE

社名 山室木材工業株式会社(ヤマムログループ)
URL https://www.yama-muro.co.jp/
代表取締役社長 山室 弘樹
所在地 〒521-0244 滋賀県米原市大野木1751-5
設立 1967年2月(昭和42年)
事業 物流資材の製造・販売、木質廃棄物リサイクル・農園芸事業
社名 株式会社サンファミリー(ヤマムログループ)
代表取締役社長 梅本 哲男
所在地 〒521-0244 滋賀県米原市大野木1751-5
設立 1990年11月(平成2年)
事業 人材派遣、人材紹介、紹介予定派遣、業務請負、外国人支援、有料職業紹介求人サイト運営、オフィス家具販売、「BIG・BREATH」運営

Re:touch Point!

社会にとって良いことで儲ける。それが実際のビジネスとして成立している、まさにお手本のような存在

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
事業を通じた社会貢献を掲げる企業は多いが、自社の社員の家族のために、学校まで建設するということは中々できることではない。しかもそれは社員が安心して働ける環境づくりのために必要なことであり、けっして社会貢献だけのためのものではない、という点が素晴らしい。
メガバンクを始めとする金融セクターが本気でサステナビリティに取り組もうとしているなか、再生可能エネルギーをはじめとする事業は、どれだけいい形のバリューチェーンを作って、そこでうまく循環させて、ビジネスにできるか、ということを考えるフェーズにきている。いいことだけやっていても仕方がない。その点でも、ヤマムログループの動向には今後も注目していきたい。