お問い合わせ

Interview
SDGsの先駆者に訊く

Re:toucher 01
始まりは、
「もったいない。」

株式会社 艶金(岐阜県大垣市)

代表取締役社長 墨 勇志さん
インタビュアー Re:touchエグゼクティブプロデューサー 田中 信康
SDGsターゲット
  • 07 エネルギーをみんなに、そしてクリーンに
  • 12 つくる責任 つかう責任
  • 13 気候変動に具体的な対策を
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
製造時におけるCO2の排出、排水による水質汚濁、厳しい労働環境など、アパレル業界を取り巻く環境には多くの課題が存在する。そんな中、30年以上前から、この問題に真っ向から取り組み、昨年「脱炭素経営宣言」を掲げたのが、株式会社 艶金である。
ファッション衣料の染色整理加工を生業とする同社は、創業130周年の老舗企業。生産のグローバル化が進むアパレル業界において、常に時代が求める高感度、高品質な加工を開発・提案してきたことで成長を続けてきた同社は、サステナビリティという課題についても様々な取り組みを展開している。
代表取締役社長の墨 勇志さんに、現在のアパレル業界に対する強い危機感、そして未来への希望についてお聞きした。

Movie


艶金のサステナビリティのあゆみ

環境に配慮した企業経営で、
大量生産・大量消費では得られない価値を届ける

田中:艶金では「脱炭素経営宣言」を公表されています。大変失礼ながら、中小企業において、ここまで宣言されている会社があることに非常に驚きました。いま地球上では、制限なく排出され続けてきた二酸化炭素(CO2)の削減を、国・地域・企業などが推進し、“脱炭素”が世界の合言葉になっています。こうした中で、世界的な基準に準拠する目標を立ててCO2排出量の削減に取り組んでおられます。

墨勇志社長(以下、墨):当社では、国際的な算定基準をもとに事業活動でのCO2の排出量を把握しており、2030年までに約20%の削減(2017年比)を目標に設定しました。
染色は大量の水を沸かし、染料を入れた湯を高温で維持したまま生地や糸を染めていきます。大量のエネルギーを使うので、CO2排出量が非常に多い、エネルギー多消費型の産業なのです。昔から、この状態をどうにかできないか、という思いを持っていましたが、環境配慮へ意識的に動くようになったきっかけは2つありました。
一つは、アパレル業界の過剰在庫問題です。現在、衣料品のほとんどは海外生産になり、安くて豊富な種類の洋服が提供されるようになりました。ただ、ここ30年ほどで生産数と消費数の乖離がどんどん大きくなっています。2019年でみると衣料品メーカーが生産した衣料は約28億着ですが、消費者が購入した数は約14億着。半分が売れ残りなんです。以前、保有する空き倉庫を活用して、メーカーの製品保管も行っていましたが、シーズン後に大量の売れ残りが運び込まれるのを見てきました。とんでもない量だと常々思っていたところ、2年ほど前からそうした現状が報道され始めました。

田中:そうでしたね。アパレル業界の知られざる課題として報道されました。

墨:テレビや業界専門紙などで取り上げられ、現状を数字として知るようになり、最終的に売れ残りが焼却処分になっていることも知りました。その時、本当におかしいと思ったんです。アパレル産業でもエコをうたう製品が出始めていた一方で、売れ残りを焼却して大量のCO2を出している。当社と同じような中小企業はみな、生産のグローバル化に大きな影響を受けながら、そのビジネスモデルの中で必死に事業を行ってきたのに。こんな現状はおかしいと強く思うようになりました。

墨社長が胸を痛めた、アパレル業界の実態

田中:アパレル業界のビジネスモデルに対する不信感が原動力になっていったのですね。二つめのきっかけはどんなことだったのでしょう。

墨:2018年に海外のアウトドア系アパレルブランドが、サプライチェーンの一部である当社の労務環境や品質管理、生産管理などを確認しにきました。「ボイラーを見せてくれ」と言われて案内したところ「あなたの会社は素晴らしい!」と思いもかけない評価をいただきました。一般的にボイラーの熱源は重油やガスですが、当社は木材チップを使用しています。つまり燃やしてもCO2の排出量が相殺されるカーボンニュートラルを実現しているボイラーだったからです。導入したのが1987年と早かったことも評価され、固い握手を求められた程です(笑)。ボイラーのCO2排出量が少ないことは認識していたのですが、これほど価値を認められるとは思ってもみませんでした。先人の大英断のおかげです。

田中:まさに御社が世界に認められた瞬間ですね。

墨:アパレル企業が自社のCO2排出量を算定するときに一番、割合が大きくなるのは、使用する生地の製造過程で排出されたCO2です。先ほどご説明したとおり、もともと染色工程はCO2の排出量が大きいですから、それを少なくできる企業は、これまでにない競争力を持つことになります。当社は同業他社と比較してボイラーのCO2排出量が約75%も少なくなっています。国内のアパレル産業においてサステナブルな取り組みは、まだ主流とは言えませんが、近い将来、必ず当社にとって好機が広がると思っています。

田中:最近ではアパレル企業でも、Z世代と呼ばれる若手社員からのボトムアップによって、サステナブルな視点を経営計画に取り入れる会社が出てくるようになりました。何のために企業はあるのか、会社の存在意義を再認識しています。
我が社は、2025年に90周年を迎え、100周年が視野に入ってきたのですが、私自身、会社の存在意義を考えたときに、会社を成長させるだけでなく、地域にとってなくてはならない企業として何をすべきかに考えが集約していきました。

墨:私は、これからのアパレル産業を考えたときに、グローバルな生産体制の大企業とともに、以前のようなローカルで生産活動する小さな企業が共存していけばいいと思っています。消費される地域に近い場所で、それこそZ世代の人たちが共感するようなコンセプトを持ち、事業活動する企業が支持される時代が来ると思います。時間は掛かるかもしれませんが。


衣食住の営みの中にある価値を伝えたい

田中:墨社長のそうしたサステナブルな考えや思いに、社員のみなさんも大きな影響を受けているのでは?

墨:そうだといいのですが、やはり社内の理解を深める活動は欠かせません。幸か不幸か、コロナ禍で仕事の手が空いてしまいましたので、私の思いや会社の方向性を説明し、理解を深めてもらう勉強会を開きました。あまりに時間がありすぎて、会社の空き地に「TSUYAKIN FARM」という菜園をつくり、みんなで畑仕事をしました(笑)。大垣市環境市民会議がコンポスト(堆肥を作る容器)を安価で提供しているので、社員食堂で出る食品ロスを使って堆肥を作り、野菜を育てています。枝豆やシシトウ、オクラなど、収穫した野菜は社食のメニューに使っています。活動を通して社員に食の「循環」を知ってもらう機会になればと思っています。

田中:コロナ禍で社会の歩みが止まったことを活用して、自社のサステナブルな活動を充実させたとは、素晴らしいですね。そういえば、御社では食品の残り物で染色した雑貨を売っていらっしゃいますよね。

墨:「KURAKIN」という自社ブランドで2008年から展開しています。食品や植物の残りを原料にした「のこり染め」という独自の染色技術を開発しました。色はさくら、パセリ、ブルーベリーなど、いろいろなカラーを取り揃え、タオルやストール、ポーチ、繰り返し使えるエコラップなどを生産・販売しています。

田中:やさしい自然の風合いが感じられる色ですね。とてもきれいです。

墨:ありがとうございます。我々の仕事は通常、お客さまが指定する色に染め上げるのですが、「のこり染め」を開発した当初はこちらから色の提案をしてみました。残念ながらお客さまの受けはイマイチで、それだったら自社で製品を作ってみようか、と始めたわけです。

田中:墨社長がされてきた数々の取り組みは、社員の方々や社外の方にもサステナブルへの意識を促しているように受け止めました。

墨:当社のような規模の企業が声を上げても業界全体がすぐに変わるわけではありませんが、それでもやり続けたいと思っています。環境に配慮した染色工場を目指し、どのように事業活動をしているのかを、若い世代や地元の方たちに広く知っていただきたいからです。
現代では、衣食住に関わる物がどのようなプロセスで作られるか目にすることは少なくなりました。大量生産、大量消費される社会しか知らずに育つと、人は偏った価値観で生活してしまうと思います。知らなかったことの中に価値を見出し、興味の幅を広げることも生きていく上で大切なのではないでしょうか。

田中:墨社長の根底にあるその意識が社内外に波及して、サステナブルな社会の一翼になっていかれるのだと思います。艶金はまさにSDGsを実践されている企業です。我が社もがんばらなければと奮起させられます。

墨:次は、早く太陽光パネルを導入したいと思っています。

田中:御社は、使用電力100%再生可能エネルギー化への早期転換も宣言されていましたからね。墨社長の挑戦は、これからも加速しそうですね。(了)

TOPIC

  • 02 飢餓をゼロに
※このターゲットはRe:touch編集部の視点によるものです
「TSUYAKIN FARM」で循環型農業を実践
大垣市では、コンポスト資材購入に補助金制度があり、艶金では、その補助制度を利用し、食堂で出た生ゴミをコンポストで肥料にし、敷地内の「TSUYAKIN FARM」で野菜を栽培している。収穫した野菜は、食堂で振る舞われ、会社ぐるみで循環型農業を実践されている。

Company PROFILE

社名 株式会社 艶金
URL https://www.tsuyakin.co.jp/
代表取締役 墨 勇志
所在地 〒503-0995 岐阜県大垣市十六町字高畑1050
設立 1956年8月18日(昭和31年)
事業 ファッション衣料向けニット(丸編、トリコット)、織物などの染色整理加工、ファッション衣料向け生地企画製造販売
布地産業資材、雑貨小物等縫製品企画製造販売

Re:touch Point!

穏やかな表情の内に秘めたる熱い想い。本気で脱炭素に取り組む企業の凄みを感じた。

Re:touch
エグゼクティブプロデューサー
田中 信康
まさに「灯台下暗し」。我々の地元である大垣市に、このような素晴らしい企業があったとは。墨社長の崇高な理念、いち早くSBTやRE100宣言などに取り組まれていることは、まさにリスペクトすべきことであるが、それを当たり前のことのようにお話になられるのも、墨社長のお人柄か。染色業界は環境に限らず、人権や安全衛生など、様々な問題が存在すると言われている。特にアジア圏ではその傾向は顕著であろう。しかし今回、墨社長とディスカッションを交わすなかで、希望の光が見えてきた気がする。ぜひ今回の取材をご縁に、協働によるイノベーションを巻き起こしていきたい。